準々決勝 アルゼンチン vs ベルギー
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トーナメント準々決勝、今日の1試合目はアルゼンチンとベルギーの闘い。両チームともに今大会の4試合すべてを1点差で勝ち抜けているという共通点があります。
ベルギーは前の試合で抜擢された17番オリジが今日も先発スタート。前の試合で途中出場し、1ゴール1アシストと覚醒した9番ルカクはベンチスタート。
アルゼンチンは前の試合に続き20番アグエロが負傷のため出場できませんでした。全体的にフィニッシュの精度が低すぎるのと、メッシがスイッチを入れないと活性化しない攻撃陣が今日はどうなるか注目。
前半8分、7番ディマリアが右にスルーパスを出そうとしたら、ベルギーDFの足に当たったボールは中央へ。ちょうど良い場所に立ってた9番イグアインが即座に反応し、ノートラップでシュート。
これが決まってアルゼンチン、早い時間帯で先制。イグアインは嬉しい今大会初ゴール。ディマリア→イグアインという、メッシの絡まないコンビプレーによる得点。とは言うものの、ディマリアにパスを出したのはピッチ中央にて個人技で二人をかわしたメッシでした。
前の試合でも決勝ゴールを決め、今日もアシストを決めたディマリアですが、前半28分に味方から「キラーパス」と呼ぶにふさわしい絶品スルーパスを突進してシュートまで持っていくもののDFに阻まれ、この時に足を痛めたらしく、立てなくなってしまいました。
相手との接触プレーが原因ではないので、筋肉系を痛めたのではないかとの報道でしたが、ディマリアは前半33分で交代。
ほとんど走らず、守備も全然しないメッシに代わって攻撃に守備にと獅子奮迅の活躍を見せていたディマリアの退場はチームにとって痛い。これでアルゼンチンの攻撃陣「クアトロ・ファンタスティコ」はアグエロに続きディマリアまでも欠く状態に。
ディマリアの不在は俺がカバーするぜ!とばかりに今日は得点も決め、個人技も冴えてたイグアイン。
後半9分には、アルゼンチンのコーナーキックを防いだベルギーがカウンター攻撃、そのボールを奪ったアルゼンチンが怒濤の逆カウンター攻撃。最後はイグアインがベルギーの守備包囲網を突破してシュートを放つも、クロスバーに当たって失敗。GKと1対1の状態であれを決められないってのは正直キツいぞイグアイン。
後半14分、ベルギーは9番ルカクと14番メルテンスを同時投入。先発起用された17番オリジ、今日は何も出来なかった。
解説の岡田さんはオブラートに包んで「若さのせいかなー」と優しく表現してましたが、オリジは動き出しがことごとく遅かったんだそうです。確かに、サイドでボールの出しどころがなくてウロウロ走り回ってるシーンくらいしか映像に出てこなかったもんなぁ。
ルカクとメルテンスを投入して以降、不思議なものでベルギーの攻撃が活性化されます。ベルギーは今大会の4試合で全ての得点が後半25分以降に決まってるらしいんですけど、確かに今日も後半25分あたりからやけに元気になって攻めまくってました。でもミスが多くて決定的場面を作れない。
一方のアルゼンチンもベルギーの猛攻を防ぐのはいいんだけど、安易に前へロングボールを蹴り出してセカンドボールをベルギーに取られて再びピンチになるか、味方にパスしてもパスミスになって取られるか、という繰り返しの時間帯が続き、攻撃に転じることが出来ません。
残り時間がどんどん少なくなっていき、ベルギーは8番フェライニや15番バンブイテン、4番コンパニーなど長身選手を前線に残して自陣からロングボールを放り込む、いつかの日本代表が苦し紛れにやっちゃったパワープレーの攻め一辺倒になります。いわゆる博打(ばくち)ですが、組織的にも固く、しかも個人技でも守備ができちゃうアルゼンチンの守備網はそう簡単に崩せません。
っていうかパワープレーするならルカクいらんかったやろ。
点を取るしかないベルギーは失点覚悟で前掛かりになり攻撃を続けますが、後半48分、一瞬の隙をついたメッシがドリブル突破からGKと1対1になりシュート。しかしここはGKが見事に防ぎました。
試合終了。アルゼンチンは今日で5試合すべてが1点差での勝利となりました。キャプテンマークを巻いているものの、いつも独りでいる映像が多いような印象を持ってしまう孤高のメッシですが、試合終了後はチームメイトと抱き合い、サポーターの合唱にあわせて嬉しそうに歌を歌ってました。一体感が出てきてますね。
メッシは過去出場した2006年ドイツ大会、2010年南アフリカ大会ともにベスト8止まりでした。メッシ本人も1得点しかしてなかったけれど、今大会は既に4得点。そしてメッシ自身初めてのベスト4進出。嬉しいでしょうね。
しかし、アグエロに加えてディマリアまでも出場できないとなったらアルゼンチンはかなり厳しい。準決勝で対戦するドイツはインフルエンザ感染被害が大したことなく終息したっぽいし、アルゼンチンの戦力ダウンはかなり深刻です。さてどうなるか。
○アルゼンチン 1 – 0 ベルギー●
【得点】
(アルゼンチン)イグアイン(前半8分)
準々決勝 オランダ vs コスタリカ
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ベスト4の残り1枠を賭けて戦うのはオランダとコスタリカ。
オランダは1回戦のメキシコ戦で、前半9分という早い時間帯に守備の中心選手、デヨングが交代したのですが、その後の報道で「そ径部の筋肉損傷」により全治2〜4週間と判明。今大会での復帰は絶望とのこと。
一方のコスタリカは、ここまで勝利の立役者とも言うべき守備の要、GKナバスが同じく1回戦のギリシャ戦で右腕(右肩?)を負傷したと思われるシーンがありました。翌日の練習を休んだとの報道もあり、ナバスがいないとさすがにヤバいんじゃないかと心配したものの、今日は先発出場してました。
そのナバスですが、今日もまあ〜呆れちゃうほどに止める止める。今大会のゴールキーパーさん、みんなスゴいわ。
前半21分にはファンペルシー、デパイと立て続けにオランダがシュートを放つも、ナバス連続でストップ。前半38分にはスナイデルのFKをナバスが好セーブ。
後半47分、ファンペルシーのFKからゴール前で混戦。「わあー!わああー!」と何度も叫んじゃうほどオランダの大チャンス、コスタリカの大ピンチ。しかしナバス全部止めた。最後はファンペルシーがシュートを放つもDFが防いだ。
コスタリカはGKナバスのスーパーセーブだけでなく、守備陣の奮闘も光りまくってました。文字通り「ゴールを死守」。そうでなければグループDの首位通過も、ベスト8進出もなかったでしょうね。
オランダのボール支配率が64パーセントだった事からも分かる通り、ほぼゲーム全体を通してオランダが攻めまくってました。しかしGKナバスとコスタリカ守備陣が最後のところで防いでる状態。
一方コスタリカは前半のシュートが1本だけという数値が証明してるんですけど、ゴール前まで行くことすら出来てなかった。カウンターを仕掛けても中盤の時点で潰されてる状態。
たまにオランダのゴール近くまで攻めてもオランダ守備陣に阻まれ、自分からコケてFKをもらいにいくというセコい作戦を仕掛けるも主審スルー。
ナメたマネしてると奥歯ガタガタいわせたるぞ、とオランダの怖い人に睨まれちゃって終了。主審がカード好きな人だったらシミュレーションでコスタリカの選手がイエローもらってたかもしれません。
ロッベンにボールが渡る度にコスタリカ中盤の選手たちは大慌てで自陣に戻るしか術がないので、なかなか攻勢に転じることが出来ない。攻めても攻めても防がれるオランダ。攻めることが出来ないコスタリカ。両チーム決め手に欠き90分でスコアレス。延長戦も同じ展開で時間がドンドン過ぎていきます。
この試合で最大のサプライズは延長後半16分、というか延長戦が終わる直前、オランダはキーパーを正GKの1番シレッセンから23番クルルに交代してきました。
なんっちゅう大バクチ打つねん!って話ですよ。PK戦のためにキーパー代えてきたんですから。日本戦でキーパー代えてきたコロンビアとは全然意味が違うし、ましてや甲子園の高校野球で9回2アウトに代打でバッターボックスに立つ初出場の男の子的な扱いでもないわけですよ。
オランダのファンハール監督は1回戦のメキシコ戦、残り15分というところで戦術を変更し選手も替えたのがモロにハマって大逆転劇を演出し、世界一の戦術家などと称賛されたわけですが、これは采配っつうか「奇策」の部類でしょ。
23番クルルのほうがPKを止める確率が高かったから、とファンハール監督は試合後に語ってたらしいですけど、そんな数値や統計でPK戦は読めないし、それこそPK戦になったらコスタリカが有利だと思うじゃないですか。だってあちらさん、ナバスいるんだから。
それもあってかコスタリカ、延長戦の途中からPK戦狙いに来てた気がします。全く攻めないとかベタ引き守備とかではなかったけど(むしろ延長は逆に攻めてた時間帯もあった)、スローインとかゴールキックになっても慌てるどころか、むしろ時間をゆっくり使ってる場面があって、そりゃそうだわなーって思いました。だってナバスいるんだもん。
なので、ファンハール監督がキーパーを代えたのって、統計的にクルルがどうとかじゃなくて、PK戦になったら我らにはナバスがいるから貰ったぜ!ってな感じで心理的に優位に立ちそうだったコスタリカ陣営に対抗するための、オランダ側の心理戦返しだった気がしてならないです。
もちろんGKクルルのデータがコスタリカ側に全く無かったとは思わないですけど、ずっと今大会はシレッセンが守ってたわけで、それがPK戦直前にキーパー代わったら普通は「え?」って思いますよね。あの人、PK得意なん?ヤバイ人なん?って。
ただですね、その心理戦が見事に当たったらバンザーイですよね。またしてもファンハールの戦術が見事に的中!ってことになるから。だけど、もしこれでオランダが負けたらどうなります?
ファンハール、きっとボコボコに叩かれますよ。「なぜあそこでキーパー代えた!」「シレッセンは好守も見せてたのに代える必要あったのか!」「香川を使わないから負けたんだ!」って最後はもう少し先の話ですけど。
代えられたシレッセンのメンタルも気になるじゃないですか。たぶんこれ、事前の作戦ではないはずなんですよ。俺って信用されてないわけ?ってならないのかな。ならないなら素晴らしい団結力ってことでいいんですけど。
そんなこんな、いろーんな意味を全部ひっくるめて「大バクチ」と私は感じたんですけど、なんやかんやで延長戦も終わってPK戦に突入しました。
PK戦、先攻はコスタリカ。
1人目は成功させたのですが、2人目の10番ルイスはGKクルルが止めた! エースが止められちゃうというジンクスもですけど、クルルが本当に止めちゃって、見てる側としてはテンション急上昇ですよ。これはコスタリカ、心理的に相当ヤバイぞ。
一方、後攻のオランダは手堅く、これ以上ないメンバーを揃えてきました。1人目が9番ファンペルシー、2人目が11番ロッベン、3人目が10番スナイデル、4人目が15番カイト。言ってしまえば百戦錬磨のツワモノだらけですよ。
メンタルめっちゃ強い4人のキックは、さすがのナバスも止められない。4人目が終わった時点でオランダが4-2でリード。コスタリカは次のキッカーが止められるか失敗すれば、その時点でオランダ勝利。
コスタリカの5人目は4番ウマニャ。これもクルルが止めた!
コスタリカがオランダに勝てば今大会最大の大番狂わせと呼ばれたかもしれませんが、このPK戦に関していえばオランダの番狂わせ的な驚きがありました。さすがにPK戦はコスタリカ(というかナバス)有利だろうとみんな思ってただろうし。
ファンハールの奇策、それに応えたGKクルル、全てのPKを全く危なげなく決めてみせた4人の攻撃陣たち。1回戦のメキシコ戦は残り数分でのミラクル逆転劇でしたが、今回は薄氷を踏むPK戦勝利。でもオランダの貫禄を感じました。強いわー。
前の試合では豪快なミドルシュートを決めて上昇気流に乗ったかと思われた10番スナイデルでしたが、今日はシュートやFKが合計3本、ゴールポストやクロスバーに当たるという不運の連続。これでPKも外したらまたスナイデルは暗黒面に墜ちてしまうぞと心配しましたけど、冷静なPKを見て安心しました。あのポスト直撃弾は次への吉兆だったんでしょう。そう信じよう。
それにしてもファンハール、想像以上にスゴイ人なのかも。何より肝が据わってますね。下手すりゃ「策士、策に溺れる」と猛批判を浴びるところですよ。2試合続けて策が当たると、オランダのベンチワークは無視できないものがあります。いやースゴイわ。
マン・オブ・ザ・マッチは敗れたコスタリカのGKナバスが選ばれました。大躍進を見せた今大会のコスタリカ、その立役者ともいえる素晴らしい活躍っぷり、そして強烈な守りっぷりでした。
このナバスから日本は大会1ヶ月前の強化試合で3点取ってるんですよ(遠藤、香川、柿谷)。あの時のナバスは誰がやってたんだ?
△オランダ 0 – 0 コスタリカ△
※PK戦 ○オランダ 4 – 3 コスタリカ●
【得点】
なし
ということで、準決勝の第2試合が決まりました。オランダvsアルゼンチン。
グループリーグでは強烈な得点力を誇ったオランダですが、決勝トーナメントに入ってからは一転してギリギリでの勝利が続いてます。
理由の一つにはたぶん、メキシコもコスタリカも積極的に攻めまくるというよりは堅守速攻で守りを固めてくるチームだったから、相手の攻め上がりを奪ってカウンターする分には猛烈に強いオランダも、守りを固めてくる相手には苦戦してるという構図が見えてきます。
そういう意味では、準決勝で当たるアルゼンチンは、もしかするとコスタリカより闘いやすい相手かもしれません。ただ、アルゼンチンの守備も相当に固いですからね。どうなるかな〜。
アルゼンチンは、アグエロとディマリアがどこまで怪我を治してくるか次第。2人とも出場できないようだと相当厳しい。逆に2人とも出ることが出来たら、これは壮絶な展開になるかもしれないですね。楽しそう〜!
得点王ランキング(7月6日現在)
2位 ミュラー(ドイツ) 4得点
2位 メッシ(アルゼンチン) 4得点
2位 ネイマール(ブラジル) 4得点
5位 ファンペルシー(オランダ) 3得点
5位 ロッベン(オランダ) 3得点
5位 ベンゼマ(フランス) 3得点
5位 シャキリ(スイス) 3得点
5位 エネル・バレンシア(エクアドル) 3得点
今日試合出場のあったメッシ、ファンペルシー、ロッベンはいずれも得点なし。3人とも準決勝に勝ち上がってますので得点を伸ばす可能性はあります。
22日目の見どころ
W杯は再び2日間の休みがあり、22日目は7月9日(水)の早朝5時に、準決勝の1試合目、ブラジルvsドイツ戦があります。
どちらも優勝候補同士のブラジルとドイツ。ネイマールが健在なら、この試合が事実上の決勝戦になった可能性もあります。ネイマールとチアゴ・シウバが出られないブラジルはメンバー的に不利ですが、地元ブラジルの大声援を背に奇跡を起こせるか。
ブラジルW杯も残り4試合。もうすぐ頂点が決まります。
以上、21日目の試合レビューでした。
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