居酒屋に連れていったことがある:クリス・ベノワ【レスラー列伝】

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新日本プロレスで練習生だった

クリス・ベノワはデビューした直後、日本にやって来て新日本プロレスで練習生をしてた時期があります。そのことは雑誌などで当時チラッと書かれていたことがあり、私も記事を読んでいたので知ってました。

当時雑誌などでは「ベノワ」ではなく「ベノイ」と表記されていました。なので、古いファンだと「クリス・ベノイ」という言い方の方がシックリ来る人もいたりします。

英語の発音風で書くと「ベンワー」になるんですけどね。

その後、新日本プロレスのジュニアヘビー級で獣神サンダー・ライガーが活躍を始めた頃に「ペガサス・キッド」という覆面レスラーが登場し、ライガーのライバルとなります。

この「ペガサス・キッド」の正体がベノワでした。ベノワが覆面をかぶってペガサス・キッドだった頃、既に一部のファンは正体がベノワだと知ってました。私もやっぱり知ってた。

その後、試合に負けた方が覆面を脱いで正体を明かすという試合形式で敗れたペガサス・キッドは、覆面を脱いだことで「公式に」クリス・ベノワだったことをカミングアウトします。

しかしリングネームはクリス・ベノワに戻さず、「ワイルド・ペガサス」という名前に変えて素顔のまま闘い続ける道を選択。

ワイルド・ペガサスとしても大活躍したベノワは、長期間にわたって新日本プロレスのジュニアヘビー級をけん引。正統派のファイトで多くのファンに支持されました。

私が彼に会ったのは、練習生だった「ベノイ」でもなく、素顔になった「ワイルド・ペガサス」でもなく、まだ覆面をかぶっていた「ペガサス・キッド」の頃でした。

JR小倉駅前でゴツい体格の外国人に声をかけられた

今から20年ちょっと前。まだ私は大学生でした。

その日、大学の友人たちとJR小倉駅の近くで飲み会。その後、駅の北口にあるカラオケ屋で二次会。当時まだ北口は都市開発が全然進んでいなくて、ほとんど何もない状態でした。

二次会のカラオケが終わり、現地で解散。友人たちと別れ、私は一人で小倉駅に向かって歩いていました。時刻はおそらく夜の11時を過ぎてたんじゃないかな。

すると前方から外国人が2名、こっちに向かって歩いてくるのが見えました。

一人は長身で、もう一人はそれほど大きくない。でも二人とも横幅はガッシリ

私とは比較にならない筋肉質のたくましさ。Tシャツから出てる腕もパンパンに太かった。誰が見てもタダモノじゃない。


2005Mar-AustinTypeTour-033 – Hyde Park Gym Muscle / mrflip

二人ともラフな服装で、ベースボール・キャップのような帽子をかぶってました。

その外国人二人組とすれ違おうとした、まさにその時、長身の男性が

「スイマセン、イイデスカ?」

と私に声をかけてきました。そんな「たどたどしい」って感じでもなく、普通の日本語で。

釣られて私も「はい?」と普通の日本語で返答。

日本語ペラペラなのかと思ったらそういう訳でもなく、でもカタコトという訳でもなく、ひとまず分かりやすい日本語を喋ってくれる背の高い方の男性が言うには、

この近くに、食事が出来て酒も飲める店はないですか?

とのこと。

前述の通り、小倉駅の北口には当時、食事の出来る店も居酒屋も全然なかった頃。一つや二つはあったのかもしれないけど、北口は私も全然分からない。

駅の反対側、南口が繁華街になってるので、そっちに行けば幾つでも居酒屋なりスナックなりあるとは思うんだけど、もう夜の11時を過ぎてて日付も変わるぞって時間帯だし、開いてる店あるかな~。

ひとまずボクも今から南口に行くとこだったし、良かったら一緒に行きましょうか? と長身の男性に日本語で説明。

「おお~、サンキュー!」と満面の笑顔で握手してくる長身男性。やたらニコヤカでフレンドリー。

対照的に、背が低い方の男性、一言もしゃべらない。

あ、背が低いと言っても、私より少し低いくらいでしたから、チビっこい訳じゃないですよ。(私は183cm、彼は公称175cm)

ということで、私と外国人の3人でJR小倉駅の南口に徒歩で移動することになりました。

「なぜオレを知ってる?」

長身男性はそれなりに日本語が通じたので、最初は歩きながら日本語で雑談してました。「北九州は初めてなんですか?」とか「ホテルは近くにあるんですか?」とか「日本酒は好きですか?」とか、そういう当たり障りのない普通の会話。

その間も、背の低い男性は全く喋らない。私と長身男性は横に並んで歩いてたのですが、背の低い彼は我々より数歩後ろを無言でついてきてました。

数分ほど喋っていて、何かが頭に引っ掛かるんですよ。話していて少し違和感がある。その違和感が何なのか、最初は自分でも判らなかった。

やがて、違和感の正体が少しずつ判ってきました。

この二人、どこかで見たことあるぞ……初対面のはずなのに、ナゼだ???

そこからさらに思考が発展して、ひょっとして? と思って長身男性に質問したのです。

あの、もしかして、プロレスラーの方ですか?

長身男性、一瞬だけ驚いた表情を見せたのですが、「オーウ! キミ、プロレス好き?」と逆質問。はい、大好きなんですよ、と私。

「ボクのこと知ってる?」と長身男性。

はい、たぶん知ってます。●●●さんですよね?

本名なんて知りませんから、リングネームを答えました。

「キミ、くわしいな」と長身男性。正解だったのか違ってたのかは結局教えてくれなかったけど、雰囲気的にビンゴだったみたい。

長身男性、確かプロレスラーになる前は日本の相撲部屋にいた元力士さんだったはず。日本語が上手なのはそれで納得。

私が答えた「●●●」というレスラーは、いわゆる「ペイント・レスラー」と言って、覆面(マスク)をかぶるのではなく、顔に絵を描いたり色を塗ったりしてたんです。


Legion of Doom / Ryan Gessner

当然、私と一緒に歩いてる時はペイントなんかしてなくて素顔でしたが、なんとなく想像はつきました。

「じゃあ、明日は来るの?」と長身男性。

え? 何? 試合が明日あるの?

帰宅してから週刊プロレスで調べて分かったのですが、確かにその翌日、北九州で新日本プロレスの試合がありました。ぜんっぜん知らなかった。

でも「試合あるの知らない」と言って殴られたらイヤなので(長身男性は悪役レスラーでした)、「はい」とウソついたー!

その会話の間も背の低い方の男性は無言。表情は、別に怒ってる訳でも不機嫌そうな訳でもなさそうなんだけど、なんかコワイんですよ。オーラ出してるというか。

実際には悪役レスラーしてて怖いはずの長身男性がヤケにフレンドリーで表情もニコニコ。背の低い方は無言の威圧感。

彼の顔も、実は以前雑誌に載ったことがあって、それを記憶してたから薄々は分かってたんです。でも彼は何も言わないから、私の方から声をかけてみました。

ベノイさんですよね?

その瞬間、それまで無表情だった彼が突然「え!!」って仰天した表情になり、

なぜオレを知ってる?

みたいなことを英語で言いました。素でカミングアウトしちゃったw


big surprise / carriecha

その彼こそが、クリス・ベノワ(当時のメディア表記ではベノイ)でした。

英語で言われたので、私も(たどたどしかったけど)英語で説明しました。昔、雑誌でアナタの顔を見たことがある。ペガサス・キッドがベノイさんだということも知ってる。明日試合があるからベノイさんかと思いました、みたいな感じで。

オレがペガサス・キッドだとナゼ知ってる?」とベノイさん。

プロレス大好きな友達に教えてもらいました、と私。それはウソじゃない。

ベノイさん、数秒ほど無言で考え込んだあと、ウンウンと頷いてから「OK」と言って、そこで初めて私に笑いかけてくれました

長身男性、ニヤニヤ笑いながら、「今日のことヒミツね。ヒミツ。シーっだよ」と私に言って、人差し指を口に当てました。もちろん、と私。

(あ、でもココで書いちゃった…)

それから少しだけど、ベノイさんも会話してくれるようになりました。ほんの少しだったけど。基本的に無口だったのかな。

ベノイさん練習生として日本で少し生活してたんだし、たぶん日本語も少しは分かったはずなんですけどね。実際、最初は私の日本語に反応してたし。でも終始英語で話してました。

私が質問して、長身男性が日本語で答えてから英語に翻訳してベノイさんに振るか、簡単な会話なら私が英語で直接ベノイさんに聞く。ベノイさんは英語で答える、という展開。

もうずいぶん昔の話なので、さすがに会話の詳細までは覚えてませんが、ベノイさん、日本のファンが好きだ、ってのは言ってましたね。痛い思いや心が負けそうになっても声援を聞くと興奮するしパワーをもらえる、みたいなことを。


IMG_9023 / gurms

JR小倉駅の南口に行き、何軒目かのスナックで店員に「外国人2名(一人は日本語を話せます)ですけどいいですか?」と聞いたらOKが出たので、そこで二人とはお別れしました。

長身男性に「キミも一緒においで」と言ってもらったのですが、なんせ私、下戸ですから

あんな腕の太い人たちに「オレの酒が飲めねえのか~、あ~ん?」とか言われて首でも締められたら本気で危険ですから。

しかも友達と飲み会&カラオケ行った直後で疲れてたのもあったので、お礼を言いつつ断りました。

でも今にして思えば、行っておけば良かったな。いろんな話が聞けただろうに。

別れ際、ベノイさんに「ペガサス・キッドが大好きです。話が出来て嬉しかったです。ありがとうございます」と言ったら、ベノイさん、ニカッと笑ってくれて握手してくれました。背は私より低いのに手は私よりデカかった。

長身男性とも握手しましたが、痛いのなんのって。ベノイさんは優しく握手してくれたのに。手がちぎれるかと思ったわ。

とても残念な最期

日本のジュニアヘビー級を席巻したベノワは、主戦場をアメリカに移し、ECW、WCW、そしてWWEと、アメリカのメジャー団体で活躍するようになります。

日本時代から共にしのぎを削ってた盟友エディ・ゲレロと共に各団体を渡り歩き、中量級の体型にもかかわらずスーパーヘビー級のレスラー達に挑んでいきました。

2004年に開催されたWWEの最大イベント「レッスルマニア20」において、ベノワは遂に世界王座を獲得し、WWEの頂点に立ちました

同じ日にWWE王座を防衛した盟友エディとリング上で泣きながら抱き合う姿が感動的でした。

そのエディが2005年に急死した直後のテレビ収録で、試合に勝利した後にリング上で泣くベノワを見て、私も泣きました。

ベノワ自身も2007年に急死。その最期があまりにもセンセーショナルなため、今も死因などの状況に関して様々に論じられているようです。

死に至るまでのあれこれは、ここでは書きたくありません。興味のある方はウィキペディアに概要が解説されていますので、そちらをお読みください。

※ウィキペディアの解説とは違う意見を唱えてる人もいる、というのを頭に置いて読んで下さい。

【参考】クリス・ベノワ – Wikipedia

その死を問題視したWWEは、ベノワの世界王座獲得を含むすべての戦績情報を抹消しましたが、最近になってベノワの戦績(タイトル歴代王者など)が公式サイトに復活したようです。

ダイビングヘッドを放つ直前の「首を掻っ切るポーズ」、あれは彼が日本で会得した闘争本能を放出する魂の儀式でした。

私の後ろを歩いていたときの威圧感、そして優しくニコッと笑いながら軽く握手してくれた感触。ベノイさんとの偶然の遭遇はいつまでも忘れません。

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(最終更新:2017年6月24日)コメントComments Off
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