ラジオスターの悲劇、そして10年後の邂逅

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ラジオ番組の常連リスナーだった

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dj_andi_baader_20032008 / mahmut

昔々、私が中学3年生だった頃の話。

地元で毎週放送されていたラジオ番組が大好きで、欠かさず聴いてました。ハガキか電話で好きな曲をリクエストする番組で、毎週ハガキを書き、ハガキを投函できなかった週は繋がるまで何度も何度も電話。いわゆる常連リスナーでした。

「ラジオネーム」や「ペンネーム」など、要するに本名とは違う名前にする人が多い中、私は本名で投稿してたんです。特に理由も意味もなくて、単に良いペンネームが思い浮かばなかったから本名にしてただけ。

その番組にはラジオパーソナリティが2人いました。男性の「タナベさん」と、女性の「オカダさん」。どちらも地元では有名で、特にタナベさんは夕方のTVニュース番組でメインキャスターだったこともあり、当時地元では最も有名なアナウンサーだったんじゃないかな。

※このエントリーに登場する人物は、私自身も含めて全て仮名です。私自身は便宜上「山田りくま」という名前だということにしてください。

ラジオに投稿したハガキが何度か読まれ、タナベさんやオカダさんが私の名前を覚えてくれて、ちょいちょいラジオで私をイジってくれるようになりました。

3回ほどスタジオを訪れて生放送を見学したこともありました。素人の中学生ですからマイクの前で喋らせてもらったわけではなく、スタジオとガラス1枚隔てた別室で見学させてもらったのですが、

「今日は番組の常連、F中学の山田りくま君がスタジオに遊びに来てくれてますよ〜!」

と、見学に行く度にタナベさんやオカダさんが私の名前を生放送で言ってくれてました。それに応えてガラスの向こうで手を振ったりして、「いま笑顔で手を振ってます」「りくま君ピースしてます」などと実況してくれたり。

放送の翌日、学校に行くと「お前またハガキ読まれてたな」「昨日見学に行ってたのラジオで聴いてたよー」などと友達に言われます。私だけでなく大勢の中学生がその番組を毎週聴いてました。

事件の発端となった1本の電話リクエスト

その日も部活動を終えて帰宅し、すぐラジオのスイッチを入れて番組を聴いてました。タナベさんとオカダさんのトークがあり、曲をリクエストした多くの人の名前が次々と読まれ、そして曲が流れる。

ある曲がリクエストされた際にも、いろんな人のペンネームや本名をオカダさんが早口で次々と紹介していきます。

オカダ:●●さん、△△さん、それからペンネーム「F中1年女子」さん、電話でたくさんリクエストいただきました。ありがとうございます。

タナベ:それでは曲いきましょう。

オカダ:あ、タナベさん待って待って。最後の人、メッセージいただいてました。

タナベ:はいはい。

オカダ:「F中学の山田先輩にこの曲をおくります。先輩のことが大好きです

タナベ:おおー! 曲のリクエストで愛の告白付きですか。青春ですねー!

オカダ:あ、ねえねえタナベさん、F中学の山田先輩って……

タナベ:ああ! もしかして!

オカダ:山田りくま君のことじゃないかしら?

タナベ:うん、ボクも今思った。山田りくま君だよね。

オカダ:そうよね! そうよね! きゃー!

いきなり自分の投稿と関係ないところで名前を呼ばれたからビックリですよ。「は?」って。

タナベさんとオカダさん、何やらテンション少し高くなりつつトークを続けます。

タナベ:山田りくま君、つい最近もスタジオに遊びに来てくれたけど、F中学だもんね。2年だっけ? 3年?

オカダ:3年生でしたね。

タナベ:彼女いないしモテないと言ってたけど、モテてるじゃないかよー。

オカダ:この「F中1年女子」さん、りくま君と付き合ってるんですかね?

タナベ:ボクの勘だけどね、付き合ってるね。

オカダ:きゃー! 今度またスタジオ遊びに来てくれたらお祝いしなきゃねー。

タナベ:りくま君、良かったね! 幸せになるんだぞ! では曲いきましょう。

ラジオ聴いててポカーンですよ。交際中の彼女なんていない。1年生の女子から好意を寄せられてるなんてことも全くない。

でも待てよ。もしかして俺が知らないだけで、1年生の女子が俺のことを好きだったのか。誰だろう。知ってる後輩か、それとも話したこともなくて、遠く離れた場所でコッソリ俺のことを見てくれてるんだろうか。バレーボールの試合も見に来てくれてたのかな。うわー誰だろう。

妄想がどんどん膨らんで、「好きなら好きだと恥ずかしがらず告白してくれていいんよ?」と、心がすっかりウェルカムなモードで浮かれまくってました。

翌日、学校に行ったら大騒ぎ。

「お前、誰と付き合ってるんや!」
「りくま君、1年生と付き合ってたんやねー」
「何組? 何組の女子?」
「いつから付き合ってんの?」
「なんで隠してんだよーふざけんなよー」
「チューした?」

男女問わず、いろんな奴らから質問攻め。「付き合ってない!」「俺も誰なのか知らん!」と本当のことを言っても信じてもらえない。

しかし、悪い気はしない。この校舎内のどこかで俺に片想いしてる女の子がいるんだもん。その子が告白してくるのを待つだけ。今日なのか明日なのか。

しかし誰からも告白されないまま時は過ぎ、1週間後。

人生最初で最後の「ガリガリ」

オカダ:ここで1通、おハガキ読みますね。

タナベ:はいはい。

オカダ:「先週、●●の曲をリクエストしたペンネーム・F中1年女子です」

タナベ:はい。

オカダ:「リクエストの最後で、F中学の山田先輩が好きですと言いました」

タナベ:ああ! はいはい、あの人ね。

オカダ:「そのあとで、F中の3年男子と付き合ってるんじゃないかと盛り上がってましたが」

タナベ:うん盛り上がったねー。

オカダ:「私が好きなのは3年じゃなくて、サッカー部2年の山田太郎先輩です

タナベ:あれ?(笑)

オカダ:「あんなガリガリのバレー部の山田りくまじゃねえよ!

タナベ:えええーーー!

オカダ:と、いうことなんですが(笑)

タナベ:んーーと(笑)

オカダ:山田りくま君じゃ、ねえよ、と(笑)

私、ラジオの前で絶句。

人違いだったというのは、それほどショックだったわけじゃないんです。もちろん多少の寂しさみたいな感情もあるにはあったけど、そんなことより、もっともっと遙かにショックだったのは「ガリガリ」と言われたこと。

今でこそオッサンになって太ってますが、中学時代の私は痩せてました。すごく筋肉モリモリというわけではなかったけど痩せすぎでもない。普通の体格でした。

中学生の頃からジャンプ力はあって、両脚の筋肉は顧問の先生からも褒められるくらいガッシリしてて、それが自分でも嬉しかったんです。もっともっと筋肉つけたいな、と当時は思ってた。

それがいきなり、どこの誰か知らん女子から「ガリガリ」呼ばわり。自分がガリガリだなんて全く自覚もなかったし、他の人から言われたことなど一度もなかった。身長が高かったせいでヒョローっと見えたのかもしれないけど、それにしてもガリガリって何やねん。

しかも、1年女子から「ガリガリの山田りくまじゃねえよ!」って、呼び捨てか。俺3年やぞ。どういうことやねん。片想いどころか嫌われてるやん。

これ書いてて何十年ぶりかでまた腹立ってきたわ(笑)

ガリガリ呼ばわりとか、後輩から呼び捨てとか、怒ればいいのか悲しめばいいのか、混乱してる私の心など知らない2人が話を続けます。

タナベ:そうかー、山田りくま君に恋人いるのかと思ってたけど。

オカダ:まあ、でもね、山田りくま君、きっとキミのことを好きな女の子がね、いますから。

タナベ:そうだね、男はさ、失恋するたびオトナになっていくんですよ。

オカダ:ほほー、男ってそうなんですか。

タナベ:そう! ボクなんてね、今まで女性に何回振られてきたか(泣)

オカダ:そうやってタナベさんはオトナになったんですね!

タナベ:うん! ボクはオトナになった! だからね、山田りくま君、きっと次があるからね。

オカダ:そうそう!

タナベ:1回の失恋でメゲないでね!

オカダ:りくま君がんばれ〜! ファイト〜!

ファイト〜じゃねえよ。そもそも俺は失恋してない。

翌日、学校に行ったら案の定ですわ。

「りくまwwwwwwwww」
「短い恋だったねwww」
「失恋速すぎだろww」
「オカダさんにファイト〜言われてたwww」
「その勘違い恥ずかしいぞww」
「誰が俺のこと好きなんやろって期待して損したなww」
「別れる前にチューした?」

もうボコボコの集中砲火。みんなに指差されて笑われた。イジメとかそういう陰湿なやつじゃなかったので、「やかましいわ!」と私も半笑い(半泣き)で反論しまくってたけど。

ラジオで訂正されてたサッカー部2年・山田太郎(仮名)のことは知ってました。バレー部とサッカー部は部室が近かったのもあって比較的仲が良く、その山田太郎とも何度か話したことはありました。ジェラシーで言うわけじゃないけど、特にイケメンでもないし、身長なんて140センチ台。なんでアイツがモテるのか。

その山田太郎も放送翌日の放課後、部活動のため部室に向かってる途中に会いまして、奴のほうから「ちわーっす」と挨拶して近付いてきました。

「いやー、誰なんですかねー。ラジオじゃなくて直接告白しにこいよって話ですよね(笑)」

そうだよなー、と私も笑いながら1発殴っておきました。

りくま、最後の反撃

次の週。

オカダ:さて、ここでおハガキを。

タナベ:はいはい。

オカダ:ここ2週ほど番組でいろいろあった山田りくま君から届いてます。

タナベ:あら(笑)

オカダ:「今日はタナベさんとオカダさんに言いたいことがあってハガキを書きました」

タナベ:お、なんだろう。

オカダ:「2週間前、ボクのことを好きな1年女子がいると番組内で盛り上がり、」

タナベ:うん。

オカダ:「先週、それがボクではなく別の山田だということが分かり、」

タナベ:そうだったね(笑)

オカダ:「次の日に学校でみんなから指差されて笑われました」

タナベ:笑っちゃダメだよ笑ったらねー。

オカダ:「失恋しただの勘違いが恥ずかしいだの友達から言われましたが」

タナベ:うん。

オカダ:「ボクは失恋もしていないし勘違いもしていません。勘違いしたのはタナベさんとオカダさんですよね

タナベ:そうだったっけ(笑)

オカダ:「F中の山田というだけでボクじゃないかと勘違いして話が盛り上がり、」

タナベ:ああーそっか(笑)

オカダ:「ボクが関係ないところで付き合ってることになり、そして失恋したことになり、最後にはガリガリになりました」

タナベ:(笑)

オカダ:「ボクがどれだけ傷付いたか、タナベさんもオカダさんも分かりますか?」

タナベ:あら。

オカダ:「ボクがグレたら責任取ってください」

タナベ:いやそれは(笑)

オカダ:確かにね、私たちが早とちりしちゃったのが始まりだったからねー。

タナベ:そうね。うん。山田りくま君、すみませんでした。

オカダ:すみませんでした。

タナベ:ボクらの番組でキミは常連さんなので、つい早とちりしちゃったんだけど、

オカダ:そうですね。

タナベ:もしね、今度こそ彼女ができたら、二人でまたスタジオに遊びに来てよ。

オカダ:うん、来て欲しいですねー。

タナベ:ではでは、そんな山田りくま君にね、お詫びの気持ちを込めて、今日はボクとオカダさんから1曲プレゼントするよ。

オカダ:はい。

タナベ:それでは曲いきます。

オカダ:山田りくま君に愛を込めて。

タナベ:『ラジオスターの悲劇』

ラジオの前で脱力してコケたわ。

その後、中学3年生で受験生だったこともあり、夏休み突入で夜も塾通いが始まり、次第にそのラジオ番組は聴かなくなっていきました。

その3年後、高校3年生の時にバレーボールの県大会に出場したんですけど、誰だか知らない、どこかの高校の男子選手が「出場選手名簿」を手にして私に声をかけてきたんです。「●●高校の山田りくまさんですか?」って。

うん、と返答した私にその男子選手、「F中学出身ですか?」って。

え? なんで俺の出身中学を知ってる? もしかしてキミもF中出身で転校したとか?

「いや、前にラジオ出てましたよね。後輩の女子に好きだと言われて勘違いしてた人でしょ

その日、1回戦で敗退したのはコイツのせいだと今でも恨んでます。

10年後の邂逅

ラジオでの騒動から10年後。私は25歳の社会人。どこからどう見てもガリガリとは言えない体格になってました。それでも今より20kgは痩せてたなあ。

高校時代の友人が結婚することになり招待状をもらったので、久々で地元に帰りました。

同級生たちとも再会し、同じテーブルでしばし談笑。やがて新郎新婦が入場し、スピーチが始まります。

司会進行を務めてる人の顔を見て、さらに喋ってる声を聴き、5分ばかり思い出せずに悶々と悩んだのですが、やっと分かった。司会進行をしてたのはタナベさんでした。しかし何故ここに?

ラジオを聴かなくなって以降もテレビのニュースは時々見ていて、原稿を読んでるタナベさんも見てましたが、大学進学と共に福岡へ転居したので、タナベさんの顔を見るのは随分と久しぶりでした。

スピーチ、そして乾杯も終わり、歓談タイムに突入。マイクを置いて椅子に座ったタナベさんのところに真っ先に近付き、名刺を渡して挨拶。

「申し訳ありません、いま名刺を持っていなくて」と恐縮するタナベさん。

タナベさんですよね、夕方のニュース番組でキャスターされてたタナベさんですよね、と確認する私。「そうですそうです、見ていただいてありがとうございます」とタナベさん。

新郎(=私の同級生)のお父さんとタナベさんが学生時代の同級生だった縁で司会進行を頼まれたんだそうです。私が福岡へ転居した後にアナウンサーの部署から違う部署に転属となり、現在は喋る仕事ではなく管理職なんですよ、と語るタナベさん。少し白髪が増えたくらいで外見は昔とほとんど変わらなかった。

テレビも拝見してましたが、ラジオも毎週されてましたよね。ハガキと電話で曲のリクエストを受け付ける番組。まだ私は中学生で、毎週欠かさず聴いてました。

「ああーそうなんですか! ありがとうございます! 何年くらい前になりますか。ああ、10年ですか。やってましたねー毎週。懐かしいなあ」

3回ほどスタジオで見学させてもらって、タナベさんとオカダさんのサインもノートに書いてもらって嬉しかったのを覚えてます。

「サインなんてしてましたか。いやあ〜お恥ずかしい。芸能人でもないのにサインだなんて、勘違いしてたんですね私(笑)」

私も成人したので外見変わっちゃったから覚えてらっしゃらないとは思うんですけど、名前で何か思い出したりしませんか?

「(名刺を見て)えーと、山田……りくまさん。んー、申し訳ありません」

いえいえ、もう10年だし、覚えてらっしゃらないですよね。中学3年の時、同じ山田という姓の後輩がいて、曲をリクエストした女の子が「山田先輩が好き」とメッセージ書いたのをタナベさんとオカダさんが私と勘違いして、それで3週くらいドタバタしたことあったんですよ。

「ああー! 思い出しました! 勘違いして失恋したことにしちゃったこと、ありましたね!」

あの時の男、私です。

「うわあーー、その節は申し訳ありませんでした(笑)」

失恋を重ねてオトナになりました(笑)

「申し訳ありません(笑)」

タナベさんが本当に10年前のことを思い出してくれたのかは分かりません。話を合わせてくれただけかもしれない。

それでもタナベさんと再会できたことは、友人の結婚式に出席してることをスッカリ忘れてしまうくらい衝撃的で、嬉しかった。タナベさんとはしっかり握手して別れました。

りくま ( @Rikuma_ )的まとめ

タナベさんがラジオで私に贈ってくれた『ラジオスターの悲劇』は、原題が「Video Killed The Radio Star」です。

あの時、タナベさんがこの曲を紹介するのを聞いて「ふざっけんなよww」と思いましたが、この曲は今も大好き。自分のテーマ曲みたいに思ってます。事実、某ゲーム企画で自分のテーマ曲を設定するとき、私は長年この曲を使ってました。

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