作品賞発表で大ハプニング発生!第89回(2017年)アカデミー賞授賞式の全受賞結果と解説

2017年2月28日

今年も笑いあり涙ありハプニングあり

年に一度の「映画の祭典」、第89回アカデミー賞授賞式が日本時間の2017年2月27日(月)にアメリカ・ロサンゼルス市のハリウッドで開催されました。例年通り日本ではWOWOWが独占生中継で放送しました。

早速本題に入りましょう。主要6部門の受賞結果を紹介します。

作品賞

◎ムーンライト
◆メッセージ
◆フェンス
◆ハクソー・リッジ
◆最後の追跡
◆ヒドゥン・フィギュアズ(邦題『ドリーム』)
◆ラ・ラ・ランド
◆LION/ライオン~25年目のただいま~
◆マンチェスター・バイ・ザ・シー

2017年は作品賞に9作品がノミネート。前哨戦となる他の映画祭では『ラ・ラ・ランド』が圧勝状態でオスカーも有力視されていたのですが、結果は『ムーンライト』が作品賞を獲得。

プロレスやボクシングなどでは「メインイベント」とも言うべき、授賞式のトリを飾る作品賞の発表で、「発表作品を間違える」という前代未聞の大ハプニングが発生してしまいました。詳しくはエントリー後半で解説します。

監督賞

デイミアン・チャゼル(ラ・ラ・ランド)
◆ドゥニ・ヴィルヌーヴ(メッセージ)
◆メル・ギブソン(ハクソー・リッジ)
◆ケネス・ロナーガン(マンチェスター・バイ・ザ・シー)
◆バリー・ジェンキンス(ムーンライト)

自身通算2作目となる『セッション』でアカデミー監督賞に初ノミネートされ、注目を集めると共にその才能を称賛されたデイミアン・チャゼル監督が、監督3作目となる『ラ・ラ・ランド』で初のオスカー獲得。監督賞の史上最年少記録を塗り替えました。

数々の問題を起こして映画業界から干されていた時期もある『リーサル・ウェポン』シリーズのメル・ギブソンが監督としてアカデミーの舞台に戻ってきたことも話題となりましたが、オスカーには届かず。

主演男優賞

◎ケイシー・アフレック(マンチェスター・バイ・ザ・シー)
◆アンドリュー・ガーフィールド(ハクソー・リッジ)
◆ライアン・ゴズリング(ラ・ラ・ランド)
◆デンゼル・ワシントン(フェンス)
◆ヴィゴ・モーテンセン(はじまりへの旅)

大混戦と言われていた主演男優賞は本命視されていたデンゼル・ワシントンが敗れ、ケイシー・アフレックが初のオスカー獲得。

受賞スピーチで「自分にとって初めての(演技の)先生はデンゼル・ワシントン」と、賞を逃したデンゼルさんに敬意を表したケイシー・アフレックでしたが、よっぽどショックだったか納得いかなかったか、憮然とした表情で視線を合わせなかったデンゼルさんが印象的でした。普通であれば笑顔などで礼を返すんですけどね。

主演女優賞

◎エマ・ストーン(ラ・ラ・ランド)
◆メリル・ストリープ(マダム・フローレンス! 夢見るふたり)
◆ナタリー・ポートマン(ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命)
◆ルース・ネッガ(ラビング 愛という名前のふたり)
◆イザベル・ユペール(エル(原題))

主演女優賞は「この人以外に誰が獲るんだ」ってくらいの超・大本命、エマ・ストーンが順当にオスカー獲得。2015年の『バードマン』以来2回目のノミネートで初の受賞となりました。

メリル・ストリープは自身の記録を塗り替える通算20回目のノミネートとなったものの受賞ならず。

ケネディ元大統領の妻を演じた『ジャッキー』のナタリー・ポートマンは2人目のお子さんを妊娠中で出産が近いらしく、授賞式を欠席しました。ボイコット説も一部で流れてますが間違ってます。別コーナーにビデオ出演して大きなお腹を披露してくれていました(このエントリー後半のYouTube動画をご覧ください)。

彼女が初めてオスカーを獲得した『ブラック・スワン』の時も第1子を妊娠中だったので、「もしや2回目あるか?」と期待してたのですが、さすがに今回はエマ・ストーンが強かった。

助演男優賞

◎マハーシャラ・アリ(ムーンライト)
◆ジェフ・ブリッジス(最後の追跡)
◆ルーカス・ヘッジズ(マンチェスター・バイ・ザ・シー)
◆デヴ・パテル(LION/ライオン~25年目のただいま~)
◆マイケル・シャノン(ノクターナル・アニマルズ(原題))

『ムーンライト』で主人公の父親を演じたマハーシャラ・アリが初のノミネートでオスカー初受賞。

『スラムドッグ$ミリオネア』で主人公を演じていたデヴ・パテルが長髪のイケメン青年に成長していてビックリでした。

助演女優賞

◎ヴィオラ・デイヴィス(フェンス)
◆ナオミ・ハリス(ムーンライト)
◆ニコール・キッドマン(LION/ライオン~25年目のただいま~)
◆オクタヴィア・スペンサー(ドリーム)
◆ミシェル・ウィリアムズ(マンチェスター・バイ・ザ・シー)

オスカー受賞歴、ノミネート歴を持つ女優陣が勢揃いした今年の助演女優賞、制したのは前哨戦でも強かったヴィオラ・デイヴィス。

目にたくさんの涙を溜めながら、振り絞るように語った受賞スピーチはとても感動的でした。

その他の受賞結果

脚本賞 マンチェスター・バイ・ザ・シー
脚色賞 ムーンライト
視覚効果賞 ジャングル・ブック
美術賞 ラ・ラ・ランド
撮影賞 ラ・ラ・ランド
衣装デザイン賞 ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅
長編ドキュメンタリー賞 O.J.:メイド・イン・アメリカ(原題)
短編ドキュメンタリー賞 ホワイト・ヘルメット シリア民間防衛隊
編集賞 ハクソー・リッジ
外国語映画賞 セールスマン(イラン)
音響編集賞 メッセージ
録音賞 ハクソー・リッジ
メイクアップ&ヘアスタイリング賞 スーサイド・スクワッド
作曲賞 ラ・ラ・ランド
主題歌賞 “City of Stars”(ラ・ラ・ランド)
長編アニメーション賞 ズートピア
短編アニメーション賞 ひな鳥の冒険
短編実写映画賞 合唱
名誉賞 ジャッキー・チェン、他3名

史上最多14部門ノミネートの『ラ・ラ・ランド』が6部門でオスカーを獲得し、下馬評どおりの強さを見せました。しかし圧勝とまではいかず、うまい具合にバラけたなあ、というのが個人的な感想。

外国語映画賞を獲得したイランの作品『セールスマン』は、監督のアスガル・ファルハーディーと主演女優のタラネ・アリシュスティが、トランプ新政権の「7カ国に対する入国禁止の大統領令」に抗議するため授賞式への出席をボイコットし、受賞スピーチはアメリカ在住のイラン人がメッセージを代読しました。

日本でも知名度の高いアクションスター、ジャッキー・チェンは名誉賞を受賞し、「今までたくさん骨折したおかげで賞をもらえたよ」とスピーチして笑いを取っていました。

複数ノミネートされた作品のオスカー受賞数を表にまとめると以下のとおり。

作品名 ノミネート数 受賞数
ラ・ラ・ランド 14 6
ムーンライト 8 3
メッセージ 8 1
マンチェスター・バイ・ザ・シー 6 2
ハクソー・リッジ 6 2
ライオン 6 0
フェンス 4 1
最後の追跡 4 0
ヒドゥン・フィギュアズ
(邦題『ドリーム』)
3 0
ジャッキー 3 0

『ムーンライト』『マンチェスター・バイ・ザ・シー』『ハクソー・リッジ』が複数部門で受賞した一方、『ライオン』『最後の追跡』『ヒドゥン・フィギュアズ』『ジャッキー』はオスカーを逃しました。

オスカーを逃した上記4作品も予告編を見る限りでは大変面白そうなので、私は必ず観るつもりです。もちろん受賞した作品はすべて観ますよ。

授賞式ハイライト

2009年の第81回からアカデミー賞授賞式に関するエントリーを当ブログでも公開しています。今年は第89回なので通算9回目の授賞式鑑賞&エントリー執筆となりました。

毎回とても楽しみにしている授賞式。今年はどんなオープニングだろうと思ったら、いきなり歌で始まりました。

▲ 会場入口から観客席へと移動しながら、ジャスティン・ティンバーレイクが歌曲賞にノミネートされた「Can’t Stop the Feeling」を熱唱。オープニングから会場全体をノリノリにしてくれました。

歌い終わると奥さんの女優、ジェシカ・ビールとキス。『ステルス』『NEXT』『エリザベスタウン』などに出演しているジェシカも今では1児の母となりました。

▲ 歌曲賞ノミネートでは他にもジョン・レジェンドが『ラ・ラ・ランド』の1シーンを思わせる夜景をバックにノミネートされた2曲をメドレーで熱唱。元ポリスのスティングもギター1本で弾き語りを披露しました。

▲ 今年の司会を務めたのはアメリカの人気トーク番組「ジミー・キンメル・ライブ!」のホスト、ジミー・キンメル。たくさんのジョークでたくさんの笑いを提供してくれました。

昨年(2016年)のアカデミー賞授賞式では前年(2015年)に続き、俳優部門のノミネートがすべて白人で占められたことに批判が集中し、「白すぎるオスカー」と揶揄され、スパイク・リー監督やウィル・スミスが授賞式をボイコットする事態となりました。

今年(2017年)は人種差別問題こそ沈静化したものの、トランプ大統領の就任により全米を揺るがしている移民政策や国民の分断などがハリウッドにも波及し、前述した通りイランの受賞者が授賞式をボイコット。

前哨戦となった映画祭でも映画関係者によるトランプ批判のスピーチが数多く発せられ、アカデミー賞でも政治的な批判による混乱や分断などが発生しないかが不安視されていました。

司会のジミー・キンメルはおそらくトランプ絡みのジョークを多数入れてくるだろうという事前予想のとおり、随所にトランプへの批判とも取れるジョークを織り交ぜながら授賞式を進行していました。

先日、Twitterでトランプ大統領から名指しで「過大評価されてる女優だ」と罵倒され対立しているメリル・ストリープは、ジミー・キンメルから「皆さん、メリルに過大評価な拍手を贈ってあげて」とのジョークで促された観衆からスタンディング・オベーションで盛大な拍手を浴びていました。

他にもジミー・キンメルは「これだけ文句言ってたら、きっと彼は授賞式の間にツイートで批判してくるだろうね」と予言していたものの、授賞式開始から2時間後も何ひとつツイートしないトランプ大統領に業を煮やし、

「おい、トランプ、起きてるの?」

「トランプへ。メリル(・ストリープ)がハーイと言ってる」

などと生放送中に授賞式のステージ上でトランプ大統領の公式アカウントにツイートを送りつけていました。2つめのツイートなんて最後に「t」を付けたら真逆の意味になるから怖いぞ。

ハリウッドスターたちに日々送信される無礼なツイートを本人に読ませるというコーナーでは男女様々なセレブたちが一般人からの自分に関する悪口ツイートを朗読し、笑ってしまったり、ヘコんだり、納得したり、怒ったりと様々な反応を見せてました。

ジミー・キンメル vs マット・デイモン、仁義なき戦い

ジミー・キンメルといえば、本国アメリカではマット・デイモンとの長きにわたる抗争がお馴染み。

今回ジミー・キンメルがアカデミー賞授賞式の司会に決定したとき、当然ながらアメリカの視聴者は「キンメル vs デイモン」がオスカーの舞台で実現するのかを楽しみにしてたわけですが、そこはキンメル、期待を裏切りません。

素人10数名を「ハリウッド観光」とダマして授賞式会場に入れるというドッキリ企画を仕掛けたキンメル。大勢の観客とハリウッドセレブを目の前にして驚き、挙動不審になる一般人のガイドを務め、客席の最前列に座ってる俳優陣を指しながら、

「この人はノミネートされてるケイシー・アフレックだ。(ヒゲぼうぼうだけど)浮浪者ではないよ。その後ろに座ってるマヌケ(=マット・デイモン)は無視してね」

今度はキンメルが番組進行をしつつ客席の階段を下りてる際、マット・デイモンが右足を出してキンメルを転倒させようと企み、引っかかって危うくコケそうになったキンメルがトークを中断してマットを無言で睨んだり。

マットが大親友のベン・アフレック(=ケイシー・アフレックのお兄さん)と共にプレゼンターとしてステージに上がった際も、女性ナレーションが

「ベン・アフレックと『ゲスト』」

とコールし、名前を呼んでもらえなくてマット苦笑。さらにマットが喋ろうとするとスピーチ終了の音楽を流す小学生レベルの嫌がらせをされたり(マットの出番のときだけオーケストラを指揮してたのはキンメルだった)。

他にも随所で二人の闘いが繰り広げられていました。

前代未聞の「作品賞を間違えた」大ハプニング

今回の授賞式、最後の最後で発生してしまった大ハプニングというか大チョンボの「作品賞を言い間違える」という事態。当事者たちは唖然としてたし、放送局であるABCは心臓発作を起こさんばかりに慌てただろうし、全世界の視聴者も仰天して言葉を失ったことでしょう。

この前代未聞の事態ですが、アカデミー賞授賞式をWOWOWで視聴していた方々であれば、一部始終を見ていたでしょうから状況が分かったと思います。

しかし授賞式を見ておらずメディアのニュース記事だけで情報を知った人がSNSで間違った情報を発信しているのが見受けられます。

真相を解説します。

▲ まず作品賞のプレゼンターとして登場したのは往年の名俳優ウォーレン・ベイティ(右側)と、女優フェイ・ダナウェイ(左側)。

この2人を悪者にしているSNSでの投稿が多々見受けられます。しかし全面的に彼等2人が悪いわけではありません。1割ほど責任はあるけど。

ノミネートされた9作品のダイジェスト映像が流されたあと、いよいよオスカーの行方を発表するという場面になって、右側のベイティが挙動不審な動きを見せ始めます

通常であれば「オスカー受賞は…(英語だと Oscar goes to)」というセリフを言いながら受賞作品名の書かれた用紙入り封筒を開けるのに、ベイティは無言のまま封筒を開けていた。

→ 封筒の中から白い紙を取りだし、そこに書かれてた文字を見て「え?」という表情をするベイティ。

→ 他に紙が入っていないか、さらに封筒の奥を探るベイティ。客席から「何やってんの」みたいな笑いが発生。

→ 「アカデミー賞、作品賞は…」と言った後に黙ってしまい、もう一度封筒の奥を探るベイティ。再び「ウォーレン大丈夫なのか?」という雰囲気の笑い発生。

→ ステージの袖の方向を見て異変を伝えようとするベイティ。しかし誰一人として異変に気付かず、「ベイティは何をアタフタしてるんだ?」という風に見える。

→ どうしていいか分からなくなったのか、それとも「これを見てくれよ」と伝えたかったのか、困り果てたベイティは隣りに立ってるダナウェイに封筒を渡す。

→ ダナウェイは「どうしたのよ〜、ビビっちゃったの〜?」と思ったか(私にはそう見えた)、ベイティの腕を「何やってんのよ」という風に軽くポンと叩き、封筒に書かれた文字を見て『ラ・ラ・ランド』と発表。

こういう流れで最初に『ラ・ラ・ランド』が作品賞を受賞したと発表されたのです。

▲ デイミアン・チャゼル監督(最後尾の右端)、主演女優賞を獲得したエマ・ストーン(中央、金のドレス)、主演男優のライアン・ゴズリング(左端)、そして『ラ・ラ・ランド』の関係者全員がステージに上がり、プロデューサーの1人目が受賞スピーチを始めました。壇上の誰もが嬉しそう。

▲ しかし、2人目のスピーチの途中あたりから後方で何やら不穏な動きが始まります。スタッフらしき人影が後方を横切り右往左往してるかと思ったら、ヘッドセットを頭部に付けた番組スタッフらしき男性が駆け寄り、『ラ・ラ・ランド』関係者の中に入っていきます。

最初に見たとき、「放送時間が相当押してる! 時間がないからスピーチ急いで!」みたいなことを伝えに行ったのかと私は思っていました。感動の輪の中に番組スタッフが入り込んでいく光景なんて滅多に見ませんから。

番組スタッフは『ラ・ラ・ランド』関係者に何やら耳打ち。そして1人目のスピーチを終えた男性から受賞作品の書いた紙をもらって中身を確認。

さらに、どこかから持ってきたもう1つの封筒の中身も確認。この辺で雲行きが怪しくなってきて、真実を知ったエマ・ストーンが「おーまいがっ」と哀しげに呟いている口の動きがテレビに映し出されていました。

スピーチしてる男性のすぐ後ろにいるマット・デイモン似の男性の名前はブライアン・カリナン。アカデミー賞のすべての受賞結果が書かれた封筒を当日まで金庫に保管している大手会計事務所「プライスウォーターハウスクーパース(PwC)」の会計士で、アカデミー賞の特集番組に出演したこともあり、アカデミー賞ファンにはお馴染みの人物。

今回の大失態がカリナン氏のせいなのか、それともカリナン氏から封筒を手渡された番組スタッフのせいなのかは現時点で明らかになっていません。(追記:このあとカリナン氏の責任であることが判明し、処分されました)

3人目の関係者がスピーチを始めた直後、最初にスピーチをした男性、ジョーダン・ホロウィッツがスピーチを辞めるよう指示。自らマイクの前に立ったホロウィッツは、

「間違いがあったようです」
「作品賞は『ムーンライト』です」
「ムーンライトの皆さん、どうかステージに上がってください」
「これはジョークではありません」

などと喋り始め、誰もが意味分からずポカーン…。

▲ ホロウィッツの後方で「正しい封筒」を手渡されたウォーレン・ベイティ(おそらく番組側から事情説明と釈明を依頼されていたのでしょう)から封筒の中身をぶん取ったホロウィッツは、自分の発言がウソでもジョークでもないことの証明として「ムーンライト」と書かれた用紙を観客席に向け、テレビカメラに撮らせます。その右隣りには「間違って手渡された用紙」を持ったままのベイティが顔を引きつらせている。

ムーンライト、と確かに記載された用紙が大写しとなり、場内騒然。『ムーンライト』の関係者たちは事態を理解し始めて感激のハグを始めたりしてるのですが、他のセレブたちの中にはまだ意味が分かってない人もチラホラ。

▲ ホロウィッツが機転を利かせて

「私たちからムーンライトの方々にオスカー像を手渡してもいいでしょうか」

と提案し(この人は本当に紳士的だった)、ステージに上がってきた『ムーンライト』のバリー・ジェンキンス監督に直接オスカー像を手渡しました。

ジョーダン・ホロウィッツの機転と誠意がなければ、今年のアカデミー賞授賞式は史上最悪な雰囲気で幕を閉じざるを得なかったはずです。

一度は自分たちが作品賞だと発表され、感激し、スピーチを述べたあとで「間違いだった」と知らされ、オスカー像を奪われステージから降ろされる。落胆、失望、不満、怒り。ネガティブな感情が芽生えて当然。現に『ラ・ラ・ランド』『ムーンライト』の双方で不満の表情を浮かべてる人はいました。

▲ ジェンキンス監督にオスカー像を手渡したホロウィッツがハグを交わしている横で、プレゼンターのウォーレン・ベイティがマイクの前に立ち、引きつった笑顔で「ハロー」とひと言。

▲ 「何やってんすか!」と司会のジミー・キンメルが(冗談っぽい口調で)ベイティにツッコミ。

確かにその通りで、ここまでの状況なら悪いのはベイティとダナウェイ、つまりプレゼンターの男女二人。ムーンライトと紙に書いてるのにラ・ラ・ランドと読んだのはナゼなんだって話じゃないですか。

最初に(誤って)受賞を発表されトロフィーを受け取った『ラ・ラ・ランド』のジョーダン・ホロウィッツが受賞スピーチしてる後方でスタッフや会計士のカリナン氏が2つの封筒を持っているという事実は、生中継を1回見ただけでは気付きませんでした(放送終了後、録画していた映像を何度か巻き戻し再生してようやく理解しました)。

この時点では完全な悪者だと全世界から誤認されてたベイティが釈明のスピーチ。

「封筒を開けたら、エマ・ストーンの『ラ・ラ・ランド』と書かれてた
「悪ふざけをしたわけじゃないんだ」

▲ ベイティの釈明がウソではないことを証明する写真も公開されていました。ベイティが持っていた赤い封筒、よーく見ると白い部分に「Actress in a Leading Role」と書かれてます。

つまりベイティは、作品賞ではなく主演女優賞用の封筒を手渡されているんです。ベイティは悪者ではないどころか、むしろ異変に気付いて何とかしようとしてくれていたのです。ただ雰囲気に流されてしまったのはイカンけど。

ベイティは封筒を開けたら作品賞ではなく「エマ・ストーン」「ラ・ラ・ランド」と書かれた紙が入ってた。これ作品賞じゃないぞ。さっき終わったばかりの主演女優賞じゃないか。作品賞の紙はどこだ? と封筒の中を探った。

だから「受賞者は…」と言って封筒を開けた後に黙ってしまい、封筒の中をさらに「(作品賞が記載された)別の用紙がないかゴソゴソ探し回る」ような挙動をしていたのです。でもリアルタイムでは誰一人そんな異変を知らないわけで、何をマゴマゴしてんだ、と失笑してた。

異変に気付いたベイティは、この封筒は違う賞のだぞ、とステージ袖のスタッフに告げたいが、できない(ここで間違いを指摘してたら最小限のダメージで済んだんですけどね)。意味が分からずパニックとなってたでしょうね。どうしていいか分からないベイティは隣りのダナウェイに託した。

ダナウェイも多少テンパってたのかもしれません。ベイティが極度の緊張でプレゼンターの手順をポーンと全部忘れちゃったんだわ、と勘違いした可能性も大いにあります。彼の失態は、同時にステージに出た自分の責任にもなっちゃいますから、これはなんとかしなきゃ、と焦りますよね。

そしてダナウェイは、封筒の間違いにも気付かず、確認もせず、エマ・ストーンの名前も見落として『ラ・ラ・ランド』と読み上げちゃった。まさかダナウェイも「間違った封筒を渡されてた」なんて夢にも思わないでしょう。ダナウェイの早トチリもハプニングの原因の1つですが、これはもう不測の事態なので仕方がない。

もしベイティが最初の間違い発表の直後、早急に間違いを指摘するなりスタッフに急いで確認すればもう少し騒ぎは小さく済んだかもしれない。でもそれをしてしまうとパートナーのダナウェイに恥をかかすことにもなるし、大喜びしてる『ラ・ラ・ランド』の人の気持ちを考えたら言えなかったのかも。

最後は司会のジミー・キンメルが「これは私の責任です」「もうここに来ることはないな」とジョークでまとめて授賞式を終えたのですが、いろんな人々の機転のおかげでなんとかトラブルが収拾できて良かった。とはいえ、今回のは結構な大問題に発展する可能性もありますけどね。

りくま ( @Rikuma_ )的まとめ

今回の作品賞での大ハプニングはおそらくアカデミー賞の歴史に良くも悪くも残り続けることになります。

【追記】

授賞式から一夜明け、作品賞発表時の大ハプニングに関してプライスウォーターハウスクーパース社が謝罪声明を発表しました。

この件に関する各メディアの報道、発表ミスのさらに詳細な顛末や原因、そしてトランプ大統領からのコメントや、授賞式の視聴率に関しても発表がありましたので、ピックアップして別エントリーに続報をまとめました。

【続報】アカデミー作品賞の発表ミスで謝罪声明、当事者たちのコメントや視聴率結果など

2017年2月27日(日本時間)に開催された第89回アカデミー賞授賞式。最後の作品賞発表で違う作品を発表してしまうという前代未聞のハプニングが発生してしまいましたが、この件に関する様々なメディアの報道内容や当事者、映画関係者、そしてトランプ大統領のコメント、さらには授賞式の視聴率などが発表されたのでまとめました。

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