6年ぶり2回目の試写会当選
2016年2月5日(金)から日本でも劇場公開される、マット・デイモン主演のSF映画『オデッセイ』。試写会に応募したところ当選したので先日見に行ってきました。
ちなみに、試写会に当選したのは今回が通算2回目。初めて当選したのは2010年2月に公開された『インビクタス』なので、実に6年ぶりの当選となりました。
『インビクタス』の時が試写会に初応募でして、初めてでいきなり当選だったから「なんだ、試写会って楽勝じゃん」と勘違いしたんですけど、それ以降6年間、何十回と応募して1回も当選せず、とても寂しく悲しい思いをしてました。
ちなみに『インビクタス』もマット・デイモンが出演していて、アカデミー賞の助演男優賞にノミネートされています(受賞はならず)。マット・デイモンが大好きで大半の作品を見ている私としては、『オデッセイ』の試写会当選は運命みたいなもんかなと。
まずは予告編をご覧ください
このエントリーを書いてる時点で日本ではまだ劇場公開が始まっていません。この段階でネタバレのレビューなど読みたい人は存在しないと思います。なので本編に関する言及は予告編レベルにとどめます。
まずは『オデッセイ』の予告編映像をご覧ください。全く何一つ情報を頭に入れたくない、という読者さんは予告編を見ないことをオススメしますし、私のレビューも読まないほうがいいです。ネタバレしないよう書いたつもりですが、内容に全く触れないわけにもいかず、それを「ネタバレ」と捉える人もいるので(だから映画レビューは難しいです)。
予告編レベルでのレビュー
火星調査をしていた6人の宇宙飛行士を突然、砂嵐が襲います。6人全員が死亡してしまうかもしれない緊急事態。
火星からの脱出を余儀なくされるのですが、ロケットに避難する際、マット・デイモン演じるマーク・ワトニーがアクシデントにより吹き飛ばされ、通信不能となったため死亡したと判断され、置き去り同然の状態でロケットは火星を去ってしまいます。
しかしマークは奇跡的に生きていた。植物学者としての知識を活かし、残された物資を利用して自給自足の生活を開始するのですが、当然ながら物資は潤沢ではなく限りがあるため、救助隊が来ない限り確実に死んでしまう。しかし地球と火星は気軽にポンと行ける距離ではないし、莫大な費用と緻密な準備が必要。次の火星探査予定は4年後。ここまでが予告編レベルで書ける概要。
作品の邦題『オデッセイ』は「長い冒険」を表す単語。原題は「The Martian」で、これはそのものズバリ「火星人」という意味になります。
火星は当然ながらパラダイスではありません。物資も限りがあるし、防護服と酸素呼吸器がない限り外には出られない。嵐も頻繁に襲ってくる。悲壮な局面が作品中で連続します。
しかし、主人公マークのユーモアが悲壮感あふれるシチュエーションを和らげてくれています。爆笑レベルの笑いは起きないものの、本来胸が締め付けられるほどの孤独と闘っているのをそれほど感じさせません。
絶望的で深刻なアクシデントも何度か発生し、演出次第では重苦しく描くことも出来たはず。しかし、この作品はアクシデントにメゲずポジティブに「次の策」を模索する主人公の生き様が描かれています。
かといって終始気軽に鑑賞できるわけでもなく、主人公がどうなってしまうのかという緊迫感も常に漂わせ、良いバランスを保って物語が進行していきます。
ふと流れてきたメロディに涙する
主人公マークが孤独を紛らわせるため、船長が火星に置いていった音楽ライブラリを大音量で流しながら作業するシーンが数回あります。
80〜90年代のディスコミュージックばかりで、主人公マークは「船長の好みは最悪だ」と嘆きながらも、他に気を紛らわせるものがないのでマシンを操縦しながら音楽を聴くわけですが、この音楽も作品の悲壮感を和らげるのに一役買っています。
物語の途中、チャカチャン、チャカチャンと聞き覚えのあるギターのコード弾きが流れ始めます。「お? え? ああ、これは」と、昔の洋楽ファンなら歓喜するかもしれません。
2016年1月10日に急逝したデヴィッド・ボウイの「スターマン」が流れるんですよ。ボウイの中でも大好きな曲の1つ。
Starman (2002 Remastered Version)
『オデッセイ』がアメリカで劇場公開開始されたのが2015年10月ですから、ボウイの訃報後に編集で入れたという訳はないんですよ。
このタイミングでスターマンかあ……と私はちょっと泣きました。場面としては特別感動的でもなかったので、ここで泣く人ってそれほどいないだろうとは思うんですけど。
「エルロンド会議」で吹く
ストーリーと関係ない「スターマン」で少し泣いた私ですが、逆にストーリーと関係ないところで笑わせてもらった場面もありました。いや、これは制作側がおそらく意図して入れたオフザケなんですけどね。
作品中盤、NASAの主要スタッフが主人公マークの救出作戦について秘密会議を開く場面があります。妙案を思い付いた青年が、その秘密会議のことを「エルロンド会議」と名付け、他のスタッフが「それは何だ?」となります。
『ロード・オブ・ザ・リング(以下、LOTR)』が好きな私は、エルロンドという名前を聞いて「ん?」と反応しました。聞き覚えのある単語。
意味が分からない人もご心配なく。作品中で青年が「エルロンド会議」の意味を解説してくれて、「お前は映画オタクだな」という展開になります。
『LOTR』の1作目で、世界の命運を握る指輪の処遇をどうするかについて、エルフ族の長であるエルロンド(演じたのは『マトリックス』シリーズの悪役でお馴染み、ヒューゴ・ウィーヴィング)の邸宅にエルフ、ホビット、ドワーフ、魔法使い、人間など各種族の代表が集結して議論する場面があります。
このことを『オデッセイ』中でエルロンド会議と呼んでるのですが、実際『LOTR』の種族会議と、『オデッセイ』でのエルロンド会議、その両方に出席した人物がいます。
▲ 上の写真はトロント映画祭でのリドリー・スコット監督(前列左)や『オデッセイ』出演者の写真ですが、これを見て「ああ〜」ってピンと来たアナタは間違いなくLOTRファン。
『LOTR』中の種族会議に「人間代表」として出席したボロミアという登場キャラがいます。そのボロミアを演じたショーン・ビーンが『オデッセイ』にも出演しています。上の写真、後列左から2番目の男性。
で、『オデッセイ』の中でエルロンド会議の意味を青年が説明してる時、そのショーン・ビーンが単独でカメラに抜かれて映し出されます。
これ、間違いなく確信犯なので、ショーン・ビーンがその時にどんな表情をするのか、LOTRファンは注目して見て下さい。私は吹きました。
2作続けて「宇宙に独りで取り残される」
マット・デイモンのファンならずとも、今作『オデッセイ』で彼が火星に独りで取り残されちゃう設定だと聞いた時、「え? また?」と感じた映画ファンは多いのではないでしょうか。
これはマット・デイモン本人も気にしていたようです。映画雑誌に掲載されていたインタビューを幾つか引用してみます。
まずインタビュアーの「あなたは再び宇宙にひとり取り残されることになりましたが」という質問に、
ジョージ・クルーニーはまだ宇宙に取り残されてるよ(笑)
via:「DVD&ブルーレイVISION」Vol.184
と最初にジョークで返しています。『オーシャンズ11』での共演以降、良好な関係を築いているジョージ・クルーニーが出演した『ゼロ・グラビティ』のネタ。これに続けて、前述した質問に対して率直な意見を述べています。
僕が最初にリドリー(・スコット監督)に相談したのは、そのことだったんだ。
僕はクリストファー・ノーランの『インターステラー』で、ある惑星に取り残される男を演じた。その後、1年半ほど休暇に入って、復帰後に出る最初の映画が、また惑星にひとり取り残される男の役になるわけさ。
「それは良いアイデアではないかもしれないと思いませんか」とリドリーに聞いたら、彼は笑ったよ。
この二つは全然違う映画だし、人は忘れるのが早いから『オデッセイ』が公開される頃には僕が『インターステラー』で演じた役のことなんか、ほとんどの人は忘れている、と彼は言った。
via:「DVD&ブルーレイVISION」Vol.184
忘れるわけねえだろ(笑)
確かに『インターステラー』と『オデッセイ』でシチュエーションは似てるのですが、演じた人物のキャラは全然別物ですので、「2作続けて」と評される危惧こそあったでしょうけど、ある意味ではマットもやりやすかったのかもしれません。
そういえば『インターステラー』にも出演し、今作『オデッセイ』でもマットと共演してるのが、女性船長を演じたジェシカ・チャステイン。『インターステラー』で二人に直接の絡みはなかったですが、今作でのジェシカは同じ宇宙飛行士チームの一員であり、彼女は重要な役を演じています。
『ゼロ・ダーク・サーティ』では眉間にシワ寄せて苦悩まみれのCIAを演じ、『インターステラー』でも父親の帰りを長年待っている眉間にシワ寄せた科学者を演じてたジェシカ。
今作でもやっぱり船長という立場で眉間にシワが寄り気味で、好きな音楽の趣味が悪いと主人公に酷評される役ですが、個人的な感想としてジェシカは作品出演を重ねるにつれてどんどん魅力的になってます。
ウィットに富んだジョークも言えちゃうキャラというのもあり、今作でのジェシカはとても可愛らしい。主演女優と言えるほどの存在ではなかったためか、2016年のアカデミー賞では残念ながらノミネートされていませんが、もっともっと人気が出てきそうな気がします。
賞レースの行方は
アカデミー賞の話題が出たので最後にまとめますが、1月14日(木)にノミネーションが発表され、2月29日(月)に授賞式が開催される2016年のアカデミー賞において、『オデッセイ』は7部門にノミネートされています。これは全ノミネート作品中3番目に多く、主要6部門のうち作品賞と主演男優賞(マット・デイモン)にもノミネートされました。
これに先立ち開催されたアカデミー賞の前哨戦「ゴールデングローブ賞」にて、『オデッセイ』は作品賞と主演男優賞を獲得しました。
ただし、「ミュージカル・コメディ部門」での受賞であり、もう1つの「ドラマ部門」では2016年の賞レースで大本命と言われている『レヴェナント:蘇りし者』が作品賞も主演男優賞(レオナルド・ディカプリオ)も獲得しています。
過去のアカデミー賞の傾向から言って、『オデッセイ』が作品賞や主演男優賞を獲るのは正直「かなり厳しい」と想像します。
あと『インビクタス』の時もそうでしたが、私が劇場で見た映画の大半はアカデミー賞の主要部門で賞を獲れないという喜ばしくないジンクスもあります。
言い方を変えれば私は娯楽作品を見ることが多いし、アカデミー賞で娯楽作品が複数の賞を獲得するのは(特に主要6部門に関しては)とても厳しい、ということになります。
せめて製作部門の視覚効果賞や脚色賞だけでも獲って欲しいなあ、とは思いますが、こちらもライバル強いので、さてどうなるか。
りくま ( @Rikuma_ )的まとめ
冒頭で書いた通り、『オデッセイ』は2016年2月5日(金)から全国で劇場公開されます。
主人公マークが火星で独り、どれほど過酷な運命を背負うことになったのか。どのようにして生き延びようとしたのか。そして船長の音楽の趣味がどのくらいヒドいのか、皆さんの目と耳で確認してみてください。
SF作品は迫力のある映画館のスクリーンで見た方が絶対にいいです。アメリカのNASAが全面協力したため、宇宙での各種機材、宇宙ステーション、管制ルーム、防護服コスチュームなどは実際のものとかなり似てるそうなので、リアリティも抜群で必見です。
クライマックスで私は泣きました。皆さんも主人公マイクにドップリ感情移入しながら彼のサバイバルを見守りましょう。