準決勝 オランダ vs アルゼンチン
via:FIFA.com
昨日の準決勝はド派手な打ち上げ花火みたいでしたけど、今日は一転して渋く濃密な試合内容となりました。ただ、両チームの今大会の試合内容を振り返ってみると、確かに今日のような試合展開になるのは全然不思議じゃないなとも思います。
南米勢で唯一残ったアルゼンチン。昨日の試合レビューの最後で、地元ブラジルの観客は今日の試合でどういうリアクションを取るのか大変興味ある、と書きました。
で、実際は今日もアルゼンチンのサポーターが多数詰めかけ、試合中にもまるで念仏かのようにいろんな歌を大合唱してましたけど、一方でブーイングも響いてました。
オランダからの応援団もそれなりに来ていたとは思いますが、ブーイングの音量から察するに、たぶんオランダのサポーターだけではない。ってことでブラジル国民のアルゼンチンに対する姿勢に変化はありませんでした。単純にアルゼンチンのことがキライだったということなのね。
アルゼンチンは、前の試合で足を負傷したディマリアがベンチメンバーからも外れていました。これでまたメッシに掛かる負担が増大してしまうのかなあと思ってたのですが、今日は22番ラベッシがむちゃくちゃ頑張っててキレキレでした。得点決めてたら一躍スターになってたんだろうけど、そこまでは無理だった。
対するオランダは、足を負傷して今大会の出場はもう無理と報じられてた6番デヨングが先発復帰。テレビの実況によればメッシのマーク要員だと言われてましたが、確かにメッシの近くでベタ付きな時もあったけど、全然違う場所にいた時もあったし、本当にマーク要員だったのか、どのくらい効果あったのかは分かりません。
試合開始前には、かつてレアル・マドリードで活躍し、アルゼンチンの代表選手でもあった往年の名選手で、7月7日に88歳で亡くなったアルフレッド・ディ・ステファノ氏に黙とうが捧げられました。
センターサークル周辺に両チーム選手たちが肩を組んで並び、黙とう。アルゼンチンの選手は黒の喪章をつけて試合に臨んでいました。
前半14分、アルゼンチンが敵陣ゴール近くでFKを獲得。メッシが蹴ったFKは曲げてくるというよりも勢いのある強い弾道でしたが、オランダGKシレッセンはこれをキャッチ。
前半47分、メッシのサイドチェンジから16番ロホが左サイドを突進する大チャンス到来。ゴール前には9番イグアインが走り込んでいたのだけど、ロホはゴール前を遙かに超え、観客席を目掛けて蹴ったかのような大失敗クロス。
このクロス失敗で前半が終わっちゃったんですけど、イグアインが怒りまくってました。ロホはとにかくクロスを失敗しまくる印象が強いんですけど、今日はオランダ側もスナイデルやカイトがクロスを失敗しまくってました。雨の影響もあったのかな。
前半だけでなく後半もだったんですが、両チームともにサイドから攻めても効果的なクロスを上げられる人がおらず、パスを繋いでPAに侵入するような連携もなく、個人技で突破しようとしても相手守備に潰され、っていう展開をお互いにやりまくってました。
ロッベンは何度もスピードで相手守備を振り切ろうとするんですけど、スピードが乗る前にアルゼンチンの守備が潰してしまう。当然ながら両チームとも相手を研究しまくってるはずで、良いところは全部潰してきます。
元々からして、オランダは相手が前掛かりになってるところをボール奪ってカウンターさせたら圧倒的な強さを発揮するんですけど、守りを固めてる相手になるとウソみたいに攻撃が止まるチーム。メキシコ戦では後半残り10分まで1点も入れられず、コスタリカ戦では120分で0点と、守備を固めた相手との対戦でことごとく苦戦してることからも明白。
一方のアルゼンチンは、守備はやたらと固いんですけど、攻撃のピースがどうしても少ない。メッシもイグアインもラベッシも、今日はとにかく走り回ってたし、いろんな個人技で相手陣内に攻め込もうとしたんですけど、攻めが単発なんですよね。これはオランダも同じなんですけど、連動してない。スルーパスを奪われたり、クロスを失敗したりと、ラストプレーのとこで潰される。
そんなこんなで両チームとも、ゴール前での決定的な場面は多くありませんでした。前半のシュート数は、アルゼンチンが3本、オランダはわずか1本。シュートを打つ前の段階でお互いに潰し合ってたことが数値からも分かります。
後半36分、これまで怪我のためベンチを温め続けてたアルゼンチン20番アグエロがイグアインとの交代で久々の出場。しかし今日はほとんど良いとこ無し。
90分戦ってスコアレス。延長戦に突入しました。
延長前半6分、オランダは3人目の交代カードとして9番ファンペルシーに代えて19番フンテラールを投入。トーナメント1回戦のメキシコ戦でやったのと同じ交代策で、延長のうちに得点を取るぞという意図と同時に、コスタリカ戦でやった「PK戦を見据えてキーパー代える」という奇策を今回はやらない、ということにもなりました。
これに関して賛否あったようですが、私の考えは後ほど。
延長後半10分、ゴール前の混戦を抜け出てキーパーと1対1になったアルゼンチン18番パラシオ、絶好のチャンスにヘディングを放つも、あまりに弱々しいシュートをGKシレッセンが難なくキャッチ。パラシオはおそらく前に出ていたキーパーの頭上を越したかったのだろうけど、この弱々しさには腰砕けてしまった。
予想通り延長30分でも得点入らず、PK戦に突入。オランダは2試合連続のPKですぜ。
前回のコスタリカ戦はファンハール監督がPK専用キーパーとして控えのGKクルルを途中交代させました。正GKのシレッセンはベンチに下がった後でペットボトルを蹴り上げるなど怒りをあらわにしていたという報道もありました。ファンハールは正GKへの敬意を欠いてるなどと、どっかの元選手が批判してるコメントもありました。
で、今日は正GKのシレッセンがPK戦に臨んだわけですけど、ベンチに座って用意してるシレッセンの表情を見てたら、笑顔がひきつってるんですよ。イヤーな予感がするわけですよ。
先攻はオランダ。コスタリカ戦でのPK戦はベテラン4人の豪華ラインナップでしたけど、今日は1番手に2番フラールを持ってきました。
そのフラール、アルゼンチンGKロメロにいきなり止められました。
後攻アルゼンチンの1番手はメッシ。全く危なげなく成功。
この後、オランダは2番手ロッベンが成功。アルゼンチンは2番手ガライが成功で、アルゼンチン2-1とリード。
オランダ3番手はスナイデル。これをGKロメロが再び止めた。ロメロが目覚めてしまった。
アルゼンチンは3番手アグエロが成功。オランダ4番手カイトも成功。この時点でアルゼンチンが3-2とリード。アルゼンチンは次が成功すれば勝利。
アルゼンチン4番手はマキシロドリゲス。GKシレッセン、反応してボールを触ったのに、両手でボールを防いだのに、勢いを止められずボールはゴールの中へ。コース読んで反応して両手に当ててるのに決められちゃうんですからね。本当にPK苦手だったんだなシレッセン…。
アルゼンチンが4-2でPK戦を制し、決勝進出。
シレッセン、1本も止められませんでした。報道によれば、シレッセンはプロになってからPKを止めたことが1回もないらしいですね。そりゃファンハールもPK戦の直前にキーパー代えよっかなと考えちゃうのは仕方ないですわ。ただね、あれは「奇策」だったから良かったのであってね。
今回の敗退に関してファンハール監督の采配ミスというコメントをチラッと見ましたけど、それは虫の良すぎる話。メキシコ戦はフンテラール投入で大成功してるんだし、今日ダメだったからってフンテラール起用が間違いって、それは虫が良すぎるだろ。
そもそも、前回のGKクルル投入はコスタリカ戦の試合レビューで書いたけど、ファンハールが仕掛けた心理戦という意味合いもあったわけですよ。その奇策が成功したから良かったものの、あれは「大バクチ」でありマジックでもあったわけで、タネを明かした後で続けてもう1回同じ手品をされても驚くんですか?って話。
フンテラールが今日ダメだったのも、シレッセンがPK戦で1本も止められなかったのも、それは選手の力量の問題であって、監督の采配のせいではないでしょ。よっぽど監督が間違った指示を出してたっつうんなら話は全く違うけど、何でもかんでも采配のせいにするのは違うと思うよ。あのナバスだってPK戦は1本も止められなかったんだから。
ファンハールうんぬんとか、PK戦うんぬんとかよりも、オランダは90分で相手の守備を崩して得点できなかった原因を突き詰めていくことこそが、またしても手の届かなかった初優勝への道に繋がっていくのではないかなーと。
ただ、ファンハール監督はオランダ代表監督を辞任し、マンチェスター・ユナイテッドの新監督に就任することが内定してますので、オランダ代表は新たな指揮官の下で新たな歴史を作っていかねばなりません。どうなるのかな。
これまでアルゼンチン唯一の弱点とさえ言われたこともあるし、私自身も今大会のスーパーなキーパーたちの中でこの人は劣るなあとレビューでも書いちゃってたアルゼンチンGKロメロですが、一夜にしてヒーローになってしまいました。PK戦って分からないもんですねー。
そのロメロですが、面白い記事が出てました。
ファン・ハール監督は2007年から09年にAZ(オランダ)で指揮をとっていた際、ロメロを指導していた。同監督は「PKはいつの時も、運に左右されるところが大きい」と述べた上で「私がロメロにPKの止め方を伝授した。だから心が痛むね」と、かつての教え子に決勝進出を阻まれた心境を吐露した。
一方、アルゼンチンの決勝進出の立役者となったロメロは「自分の母国とまったく異なる地で僕を助けてくれた監督には、これからもずっと感謝し続けるよ」と、かつての恩師であるファン・ハール監督への感謝の気持ちを述べている。
via:ISM
ロメロにPKの極意を教えてたのは、敵将のファンハールだったそうです。何とも皮肉なもんですなー。その極意、シレッセンにも教えてあげてれば…。
今日はディマリアを欠いたアルゼンチンですが、なんだかんだで決勝進出ですよ。予想を外しまくってしまったなぁ。
△アルゼンチン 0 – 0 オランダ△
※PK戦 ○アルゼンチン 4 – 2 オランダ●
【得点】
なし
ということで、決勝のカードはドイツvsアルゼンチン。いやはやー。
得点王ランキング(7月10日現在)
2位 ミュラー(ドイツ) 5得点
3位 メッシ(アルゼンチン) 4得点
3位 ネイマール(ブラジル) 4得点
5位 シュルレ(ドイツ) 3得点
5位 ファンペルシー(オランダ) 3得点
5位 ロッベン(オランダ) 3得点
5位 ベンゼマ(フランス) 3得点
5位 シャキリ(スイス) 3得点
5位 エネル・バレンシア(エクアドル) 3得点
今日はメッシ、ファンペルシー、ロッベンが出場しましたが、いずれも得点なし。3人ともあと1試合残っているので、ランキングがどうなるかは分かりません。
24日目の見どころ
残すところあと2試合だけになってしまったブラジルW杯ですが、次戦24日目は7月13日(日)の早朝、3位決定戦のブラジルvsオランダ戦が行われます。
事前予想エントリーで、決勝戦のカードはブラジルvsオランダだと私は予想してたんですけど、3位決定戦で実現するとは思いませんでした。とほほ。
以上、23日目の試合レビューでした。
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