ビリー・ジョエルのアレンタウンを聴くと今も彼女を思い出す

長女に催促されて昔話をした

Allentown

うちの長女は現在、中学2年生の14歳。

昨日長女と雑談をしている中で、仲の良い友達が彼氏から誕生日プレゼントにネックレスをもらい、その値段が結構高くてみんなでビックリした、という話を聞いた。

お前は男の子からプレゼントもらったり、逆にあげたりとかはないの? と訊くと、

「は? ないない、私は▲▲さん一筋やもん」

と知らない名前を口にした。聞けば正体は「歌い手」。最近はネット動画で彼の音楽に夢中らしい。

俺が中2の頃は付き合ってる彼女いたけどなあ、と話すと

「マジ! どんな人! 出会いは! 告白はどっち!」

と長女が必要以上に食い付いてきたので話してあげた。今から30年以上も前の話。

毎日家電店に通った

中学2年で14歳だったある日、両親と共に行った家電店、そのレーザーディスク販売コーナーでビリー・ジョエルのライヴ映像がデモで流されてた

当時、洋楽はビートルズしか知らなかった。ビリー・ジョエルなんて名前も曲も聞いたことがない。だから最初は興味もなかった。でも流れてくる曲を聴いてるとすごくイイ。

中でも衝撃的だったのが「Prelude / Angry Young Man」、邦題は「プレリュード/怒れる若者」の演奏シーン。鳥肌が立った。

プレリュード/怒れる若者

プレリュード/怒れる若者

収録アルバム『ニューヨーク物語Billy Joel Sony Music Japan International Inc.Amazonデジタルミュージック

翌日から学校の帰りに毎日、その家電店に寄ってビリー・ジョエルのレーザーディスクを見てた。3週間くらい毎日欠かさずビリー・ジョエル。店員呆れてたんじゃないかな。

レコード店で彼女と会った

当時欠かさず聴いてたラジオ番組でビリー・ジョエルの「アレンタウン」という曲が流れた。すごく気に入って、この曲が入ってるアルバムを買おうと即決。

調べてみると収録アルバムは「ナイロン・カーテン」という名前。リリースされたばかりの新譜だった。(1982年9月リリース。歳がバレる)

週末、行きつけのレコード店に「ナイロン・カーテン」を買いに行ったが売り切れ。あきらめきれず市内のレコード店を巡ったが、全店売り切れ。

絶望して途方に暮れながら街を歩いていると、背後から肩を叩かれ名前を呼ばれた。振り向くと女の子がニコニコしながら立ってる。誰なのか分からない。

数秒考えて思い出した。同じクラスの女子

学校では物静かな子で、大声を出して騒いでる姿を見たことがない。授業中も特に発言するわけではなく、全く目立たない地味な印象。おそらく彼女と会話したのはその時が最初だったように思う。

「何かレコード探してたの?」

と彼女。最後に立ち寄ったレコード店の中で私を見つけ、後をつけて来たらしい。

「そんなに欲しいならレコード取り寄せてもらえば?」

なるほど、そういう手があったか。最後に立ち寄ったレコード店に戻る。「私も一緒に行く」と言って彼女もついてきた。

「取り寄せ出来ますが、1ヶ月くらいかかるかもしれませんね」

と店員。1ヶ月も待つのはツラい。どこか他のレコード店ならもっと早く入荷するかもしれない。

結局、取り寄せを頼むのは止めて数週間後にまた店巡りをしようと決めた。店を出て、彼女にバイバイと告げてから帰宅。

1週間後の土曜か日曜の昼、自宅に彼女から電話がかかってきた。なぜうちの電話番号を知ってんだ? と驚いて聞くと、「◯◯くんに聞いたよ」と同じクラスの男子生徒の名前を挙げた。近くの公園に来てくれる? と彼女。

指示に従い公園に向かう。先に到着してた彼女は何かの包みを差し出した。開けてみるとアナログレコード盤。「ナイロン・カーテン」だった。

え? 

「それプレゼント」と彼女。え? 

意味が分からなくて混乱した。1週間前に初めて会話した女の子からいきなりレコードをあげると言われた。しかも一番欲しかったレコード。どうリアクションを取ればいいのか全く分からない。嬉しいのか困るのか、受け取っていいのかマズいのか。

数秒ほど無言で固まってしまったが、結局素直に「ありがとう」とだけ告げてレコードをもらい、それ以上は彼女と何も会話できず、パニック状態のままバイバイと挨拶をして公園を去り、帰宅してしまった。

数日後、学校の昼休憩中に彼女がやって来た。小声で「音楽室に行こうよ」と言う。音楽室で何をするつもりなんだ……と少々緊張しながら彼女についていく。

ピアノの前に座った彼女は、「あのアルバムでこの曲が一番好き」と言ってから「アレンタウン」をピアノで演奏した。ものすごくビックリした。

初めて家電店でビリー・ジョエルと出会った時のように感動して鳥肌を立てながら彼女の演奏を聴いた。後で教えてもらったが、彼女はピアノ歴8年。幼稚園の頃からピアノを習っていたという。

すごい偶然なんだけど、俺もその曲が一番好きなんだよ、と演奏を終えた彼女に伝えると、「気が合うね」と彼女は嬉しそうに微笑んだ。あの時プレゼントしてくれたアナログ盤のレコードを彼女はもう1枚、自分のために購入していたらしい。

それから1回か2回彼女とデートをして、彼女のほうから告白され、我々は交際を始めた。当時中学2年の14歳。人生で初めての「恋人」と呼べる存在は彼女だった。(初恋は別の子だったけど)

アレンタウン

アレンタウン

収録アルバム『ナイロン・カーテンBilly Joel Sony Music Japan International Inc.Amazonデジタルミュージック

別離、進学、卒業

でも交際期間は半年ほどで終わった。理由は自分が幼稚だったから。

彼女の些細な行動や言動を誤解し、ケンカになった。彼女は何度も謝った。悪いのは全部こっちなのに。でも、どうしても彼女のことが許せず、最後は一方的に別離を告げた。

翌年に我々は受験生となり、私は第一志望の高校に合格。驚いたことに彼女も同じ高校に入学した。交際していた頃、彼女は別の高校を志望していると聞いていた。なぜ志望校を変えたのかは知らない。

高校に入学してからも私は彼女を拒み続けた。ときどき廊下ですれ違った際に彼女が話をしたい素振りを見せていたのは気付いていた。しかし気付かないフリをした。

3年間で数人の女性と交際し、そして卒業式を迎えた。卒業証書を持って級友たちと下駄箱に向かう途中、視線の先に彼女が立っていた。

「元気でね」と彼女は言った。「ありがとう」と返した。

彼女と高校で会話をしたのはそれが最初で最後だった。彼女は一瞬だけ泣きそうな表情を見せ、すぐ背を向けて下駄箱と反対側に走り去って行った。

あの娘にアタック

高校卒業から2年後、20歳の時。福岡の大学に進学していた私は実家に帰省中、街で偶然彼女と再会した。歩いてる彼女に気付き、こちらから声を掛けた。彼女はとても驚いた表情をしたけれどすぐ笑顔になった。彼女に誘われて喫茶店に入った。

ずっと謝りたかった、と正直に彼女に告げた。中学生の時、すごくヒドい事を俺はしてしまった。高校生になってもずっと無視し続けた。俺の行動や態度で傷付けてしまった。そのことに俺は高校を卒業するまで気付けなかった。すごく幼稚で、自分勝手で、他人の気持ちを分かろうともせず、バカで情けなかった。

喫茶店の中で彼女に延々と謝り続けた。

「大丈夫だったよ」と彼女は笑顔を作りながら言った。会話は出来なかったけど、別にキライになったわけじゃなかったし。それにずっと恋愛感情があったわけでもなかったから。

高校の時、付き合った人いた? と彼女に訊いた。

「うん、いたよ」と彼女。今も彼氏いるよ。

店内の有線でビリー・ジョエルの「あの娘にアタック」が流れ始めた。彼女はクスクス笑った。

あの娘にアタック

あの娘にアタック

収録アルバム『An Innocent Manビリー・ジョエル Sony Music Direct(Japan)Inc.Amazonデジタルミュージック

「中3の時だね」と彼女。意味が分からず、何が? と聞き返す。

「この曲の入ってるアルバムが出た年だよ。中学3年の時」と彼女。

これピアノで弾ける? と彼女に訊く。「もちろん」と彼女はドヤ顔で頷いた。

喫茶店で1時間ほど会話をして、最後は互いの現住所と電話番号を教え合い、店を出て我々は別れた。じゃあね、と言うと、彼女は「いないよ」と返した。

また意味が分からず、何が? と訊いた。

「今も前もいないよ」とだけ彼女は答え、手を振ってから小走りに駆けて去った。

その後、お互いに1回ずつ手紙を出し、そして音信不通になった。音信不通になってから約1年後、1人の女性と出会った。

「それがお前のお母さん」と私は長女に告げた。

「▲▲さんのCDをプレゼントしてくれる男子がいたら付き合ってあげてもいいかな」と長女。

俺が言いたかったのはそういうことじゃないんだよ…。私が言うと、長女は楽しそうにワハハ〜と笑った。

もう30年以上が過ぎた今になっても、アレンタウンを聴くと笑顔でピアノを弾いてる中学生の彼女を思い出す。

この記事がお気に召したら
「いいね!」をお願いします!
「りくまろぐ」の最新情報を
Facebookにお届けします