準決勝、地元ブラジルvs強豪ドイツ
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2014年にブラジルで開催されたサッカーのワールドカップ。
その準決勝は2014年7月8日に、ブラジルのベロオリゾンテという都市にある「エスタジオ・ゴベルナドール・マガリャンイス・ピント(通称ミネイロン)」というスタジアムでおこなわれました。
対戦カードはブラジルvsドイツ。開催国のブラジルと、優勝候補の筆頭・ドイツが準決勝で激突する好カードでした。
「マラカナンの悲劇」の払拭が裏テーマだったはず
開催国となったブラジルは、当然ですが地元での優勝を目指すと同時に「マラカナンの悲劇の払拭」という裏テーマもあったはずなんです。
1950年に開催されたブラジルW杯の決勝戦、勝てば初優勝だったブラジルはウルグアイと対戦しました。
ブラジルは1点を先制したものの、後半に2点取られて逆転され、試合はウルグアイが勝利。ウルグアイは大会優勝を飾りました。
ブラジル敗戦のショックでスタジアムの観客数名が亡くなっており、試合会場だったスタジアムの名前を取って「マラカナンの悲劇」と現在も呼ばれています。
戦前の勝敗予想はどうだったのか
個人的には「ブラジルは勝てないだろう」と思っていました。後出しジャンケンと言われるかもしれませんが、私自身は「圧倒的にドイツが有利」だと戦前から思っていました。
これは私に限らず、多くのサッカーファンが感じていたかもしれません。なんせブラジルはネイマールとチアゴ・シウバの2人が出場できなかった。
守備の要であるキャプテンのチアゴ・シウバは、準々決勝のコロンビア戦でつまらないプレイをしたせいでイエローカードをもらってしまい、累積警告によりドイツ戦は出場停止となりました。
さらに、攻撃の中心でありエースでもあるネイマールが、同じく準々決勝のコロンビア戦でフアン・スニガに背後から体当たりを食らって負傷し、退場。
てっきり、いつものネイマールのシミュレーション(さほど痛くもないのにファウルが欲しくて大げさに痛がるネイマールの常套手段)かと最初は思っていました。
しかし退場前のネイマールの痛がり方は尋常ではなく、実際に試合後「脊椎骨折の重傷」と発表されました。当然ながら準決勝のドイツ戦は出られません。
ネイマールとチアゴ・シウバを欠くということは、戦力ダウンはもちろんのこと、代わりの出場選手のプレッシャーも相当だろうし、連携の問題も出てきます。
しかも、相手はドイツです。ネイマールとチアゴ・シウバが仮に出場していたとしても果たしてどうだったか。
今大会のドイツはタレントも揃ってるし、出場選手の大半が好調を維持し、結果を出している。安定っぷりが抜きん出ていました。もちろん、だからと言って必ず勝つとは限らないのがサッカーなんですけども。
一方ブラジルはというと、準々決勝までの時点で明確に、しかもコンスタントに結果を出していたと言えるのは、ネイマールと、チアゴ・シウバと、ダビド・ルイスくらいしかいなかった。
得点を決めた人って意味じゃないですよ。オスカルだってフレッジだって得点を決めている。フッキも毎試合ものすごい運動量で走り回ってチームに貢献していたし、ジュリオセザールはPK戦でブラジルに勝利をもたらした。
他の選手だって汗をかきまくったからこそ、準決勝の舞台まで勝ち上がっているのは事実。ただ、オスカルもフレッジもフッキも、波があり過ぎてミスが多過ぎる。
準々決勝のブラジルvsコロンビアを観戦した後、「準決勝でカギを握るのはオスカルとフッキだ」と私はSNSで書いていました。
この二人が得点を決めて、ダビド・ルイスとジュリオセザールが守備を統率できるのなら、たとえドイツが相手でも分からない。あとはサッカーの神様が決めること。
ネイマールを欠いたことで団結が芽生えたブラジル
試合前、ブラジルの各選手には気合いがみなぎっていました。
ネイマールのユニフォームを持ってダビド・ルイスは国歌を歌っていたし、ネイマールのためにこそ勝つんだというチーム全体の意志は感じられました。
そのネイマールに代わってFWには20番ベルナルジを先発起用。今回の試合が行われたベロオリゾンテを拠点とするアトレチコ・ミネイロというチームでサッカー選手としてのキャリアをスタートしたのだそうです。
イエローカード累積2枚で出場停止となった守備の要・チアゴ・シウバの代わりには13番ダンテを先発起用。ドイツ・ブンデスリーガのバイエルン所属で、対戦相手・ドイツの大半の選手とチームメイト。入場前には多くのドイツ選手とハグしてました。
コロンビア戦でイエロー累積2枚のため出場停止だった17番ルイスグスタボもカードがリセットされて試合復帰。これが今日揃えることの出来たブラジルのベストメンバーでしょう。
ドイツ・クローゼとブラジルとの因縁めいた関係
対するドイツは準々決勝フランス戦と全く同じメンバーで来ました。
1トップで11番クローゼを今日も起用。というか、今日クローゼを起用しなくてどうすんだって話なんですよ。
実はクローゼとブラジルには因縁めいた関係があります。
今大会でW杯の通算得点記録を15点に伸ばしたクローゼですが、タイ記録で並んでいるのは元ブラジル代表のロナウド。
ロナウドがエースだった頃のブラジルは、2002年の日韓W杯・決勝戦でドイツと対戦し、クローゼの目の前で2点を決めたブラジルが2-0で優勝しています。
さらにロナウドは2006年ドイツW杯で日本を相手に2点決め(中田英寿選手の引退試合になった試合です)、さらにトーナメント1回戦でガーナ相手に1点を決め、通算得点記録の単独トップに立ちました。
つまり、クローゼの地元ドイツでロナウド個人は頂点に立ったわけです。ブラジルは準々決勝でフランスに負けましたが。
通算得点の新記録を達成した時のロナウドがこんな感じの顔。この子連れ狼カットのヘンな髪型がずーっとW杯の記録保持者として残っていたわけですよ。
「子連れ狼カット」と言ったところで若い世代の人々には分からないだろうと思いますが。
とにかく、クローゼは2002年のリベンジも果たさなければならないし、会場はブラジルで、対戦相手もブラジル。ここで新記録を作らないでいつ作るんだ!って気合いも入ってたんじゃないですかね。
ちなみに、W杯でブラジルとドイツが対戦したのは前述した日韓W杯での1試合だけなのだそうです。今日が通算2試合目。
だからクローゼだけじゃなく、ドイツの選手全員が燃えていたことでしょう。
ミュラーの先制点で試合が動き始める
試合開始から10分は攻守入れ替わる激しい展開でしたが、どちらかと言えばブラジルが良い形を作ってました。ゴール前にも行けてたし、人数も多めに敵陣へと入れていたし、ドイツの反撃時も帰陣が速かった。
ブラジルも相当気合いが入ってるな、と感じられるシーンだったし、これは好勝負になるかもしれんぞと期待しつつあったのですが、前半10分過ぎに早くも展開が変わりました。
前半11分、コーナーキックのボールをファーサイドでフリーになっていたドイツ13番ミュラーがインサイドキックで蹴り込み、ドイツ先制。
ドイツは今大会、5試合全てで先制点を決めたことになりました。
やっぱり先制点って大事だということなんでしょうね。今大会は逆転劇もかなり多かったから、先制点を入れたからと言って安心ではないんですけど、ドイツは全試合で先制点を守り切ったことになるから、やっぱり試合運びが安定しているということなのでしょう。
ミュラー自身は今大会5点目。あと1点で2大会連続の得点王になります。また前回大会の南アフリカW杯での5得点と合わせて、早くもW杯での通算得点が10点目となりました。
コーナーキックを蹴る直前まで、ミュラーにはブラジル4番ダビド・ルイスがマンマークで付いていました。
ニアサイドの位置に立っていたミュラーがスススーっとファーサイドに移動した直後、ダビド・ルイスもすぐ気付いてミュラーを追っていました。
しかし、敵味方が密集していたせいでダビド・ルイスは進路をふさがれてしまい、やっと集団から抜け出た時にはミュラーがシュートの体勢に入っていました。
ダビド・ルイスはギリギリで間に合わなかった。ミュラーの動きを察知はしていたんですけどね。もう少し早く気が付いていれば。
これはブラジルのミスというよりは、マークを外したミュラーの動きが巧かったのと、ダビド・ルイスに運がなかったと言えます。
ダビド・ルイス本人もそう感じたからか、切り替えを促し味方を鼓舞してました。まだ1点ですからね。
ただ、次の2点目が実質的に今日の試合を決めました。点の取られ方が悪い。
クローゼ、ワールドカップ通算得点の新記録を達成
前半23分、ドイツ18番クロースのスルーパスを絶妙の走りでPA内に斬り込んだ13番ミュラーがGKの目前でパス。
フェイントのような形でパスを受けたドイツ11番クローゼがシュート。
一度はブラジルGKジュリオセザールが止めるも、跳ね返ったボールを再びクローゼが蹴り込みました。これでドイツ2点目。
この瞬間、W杯通算得点記録保持者が、
ヘンな髪型のロナウドから、
クローゼに切り替わりました。
クローゼはW杯通算得点16点。遂に単独の新記録を達成しました。ずっと昔からクローゼを見ていたファンの一人として本当に嬉しい瞬間でした。
ちなみにクローゼ、W杯で得点を決めた時は宙返りを披露するのですが、今回は披露しませんでした。試合後のコメントによれば、宙返りのことを忘れていたらしいです。よほど嬉しくて興奮していたのでしょうね。
クローゼにはブラジル23番マイコンがマークに付いていました。
右サイドにドリブルで持ち込んだミュラーが中央のクロースにパスし、そこからミュラーが斜めに走ってペナルティエリア内に進入。
ミュラーの動きを察知したクロースがブラジルDFの間を抜く絶妙のスルーパス。これをミュラーが受けた時点でブラジル守備陣は完全に裏を取られていました。2点目の半分はミュラーのゴールでもあります。
ワープしてきたかのようにブラジルのゴール正面に出現してボールを受け、GKと1対1になったミュラーに驚いたか、ブラジルDF陣全員の足が止まってボールウォッチャー状態。
さらにクローズがミュラーの元へ走り込み、GKから見えない位置でパスを受け取る。ドイツ攻撃陣の連動した動きにブラジルDFマイコンが全く対応できず、クローズを追い掛けることも出来なかった。ドイツの連携は実に素晴らしかった。
2失点目があまりにもドイツの好き放題にやられてしまったので、ブラジル守備陣の視線が完全に泳いでいました。この時点で相当なパニックになっていたのではないかと想像します。
事実、2点目を取られてからわずか1分後にドイツの追加点が生まれます。
ブラジル守備陣の大混乱、ドイツの圧倒的攻撃力が炸裂
前半24分、右サイドからドイツ16番ラームがクロス。これをドイツ13番ミュラーがスルー、というか実際はシュート空振り。
しかし、後ろに走り込んでいたドイツ18番クロースが遠い位置からノートラップでボレーシュートを決め、ドイツ3点目。
この3点目もミュラーが絡んでるんですよね。
ミュラーのシュート空振りが意図したものなのか、本気で空振りしたのかは分からないですが(私は本気で空振りしたと思っています)、ミュラーの動きに釣られてしまい、ブラジル守備陣の足が完全に止まっちゃってるんですよ。
だからクロースはほぼフリーの状態でシュートを打てている。ブラジル守備陣はクロースのシュートに反応すらできていない。ただ見てるだけ。
2失点目のパニックが、わずか1分後の3失点目に繋がり、もう悪循環の極致です。ブラジルの選手たち、頭が真っ白だったんじゃないかな。
で、また2分後です。キックオフの直後でした。
前半26分。キックオフ後にゆっくりボールを回しているブラジル守備陣。しかし、ブラジル5番フェルナンジーニョの緩いバックパスを読み切ったドイツ18番クロースがパスカット。
クロースはそのままペナルティーエリア内にドリブルで突進。ブラジル守備3人プラスゴールキーパーの4人に対して、ドイツはクロースと6番ケディラの2人。
数的不利もなんのその、ゴール前で余裕のパス交換を経てドイツ18番クロースがシュート。これが決まってドイツは4点目。
スタジアムの観客席が気持ち悪いほど静まり返りました。完全にブラジル守備陣のミス。
さらに、4点目からわずか3分後。
前半29分。ブラジルの攻め上がりを防いだドイツのカウンター。
最終ラインからのフィードをドイツ6番ケディラがトラップ。ゴール前でドイツ8番エジルとパス交換してからケディラがシュートし、これが決まってドイツ5点目。
ブラジルは、わずか6分間で4失点です。
4点目と5点目は全く同じ状況で、ドイツ選手はペナルティーエリア内の2人だけで面白いようにパス交換をスイスイと決めている。ブラジルの選手と選手の間をポンポン通してる。
ブラジル守備陣は頭が真っ白で何も考えられなくなっているのか、ボールウォッチャー状態。
よく小学生のサッカーの試合で目にする、ボールしか見えておらず、ボールだけを追い掛けている状態になり、相手のマークだったり、シュートコースを防ぐといった動作すら出来ない。あのブラジルがですよ。
1点目を入れられた直後は闘志を見せていたブラジルですが、追い付くためには攻撃的になるしかなく、しかしパスミスが多かったり、あまりにも個人技任せな攻めで簡単にボールを奪われる場面の連続で、敵陣ゴール前に近付くことも出来ない。
しかも中盤にポッカリと穴が開いてしまい、ドイツに面白いようにパスを回される。
ブラジルはボールを繋ぐことが出来ないのと、立て続けに失点して大混乱したせいもあったのか、まだ前半なのに苦し紛れのロングフィードでパワープレーみたいな攻撃を始めてしまいます。
パスすら繋がらないのに、空中戦で有利なドイツ相手にそんなことして繋がるどころか、みすみすドイツにボールをプレゼントしてるようなもの。最終ラインの守備が崩壊し、中盤の守りも繋ぎも崩壊し、攻撃戦術までも崩壊してしまった。
前半は5-0で終了。その瞬間、なんともドス黒い感じの大ブーイングがスタジアムを支配していました。
ブラジルが前半に打ったシュートは、わずか2本。
ブラジル7番フッキは、いつもの試合と同じく今回も突進力を発揮して前線に攻め込んでいました。しかしプレイが独善的なのか、それとも周囲のサポートが足りなかったのか、フッキからのパスが味方に全く繋がらない。
いつもはペナルティーエリアの外から(ある意味苦し紛れの)ミドルシュートを放ったりするんですけど(それが全然枠内に行かないのが問題だったのだけど)、今回はミドルシュートを打つことすらできていませんでした。
フッキは前半だけのプレイでハーフタイムに交代。あの出来ならどうしようもない。カギを握る1人だと予想していたフッキが玉砕して交代し、いよいよブラジルは追い詰められていきます。
ブラジルの反撃をことごとく封じたドイツ守護神ノイアー
ブラジルは後半開始時、フッキと5番フェルナンジーニョに代えて、16番ラミレスと8番パウリーニョの2人を同時に投入。
後半5分、ブラジルが久々のチャンス。
ブラジル9番フレッジのスルーパスからブラジル16番ラミレスが敵陣ゴール前で中央にパスを折り返します。
しかしドイツGKノイアーが反応して好セーブ。止めていなければ確実に1失点でした。
惜しくも得点には繋がらなかったものの、このあたりからスタジアムが再び盛り上がり始め、ブラジルコールも湧き上がり始めます。
ブラジル選手たちの動きも前半途中からの絶望的な重さが少し抜け、ドイツ陣内に攻め込むようになってきました。
しかしその勢いを、またもこの人が飲み込んでしまいます。
後半6分、スルーパスを完全フリーで受けたブラジル11番オスカルのシュートをGKノイアーが再び止めた。
直後の後半7分には8番パウリーニョがゴール目の前でシュートを放つも、GKノイアーは手ではなく上半身で止めた。
GKノイアーが弾いたボールを再び詰めたパウリーニョが間髪入れずに連続シュート。顔面付近に飛んできたシュートをノイアー、今度は手で防いだ。
後半開始直後の猛攻、ブラジルのシュート4本を続けて止めたGKノイアー。ブラジルは良いシュートが続いたのに、1点すら取ることができない。
批判の続いたフレッジが自国サポーターからブーイングを浴び始める
ブラジル攻撃陣の自信を喪失させてしまう展開の中、試合の不穏な空気を決定的にしてしまうちょっとした事件が発生。
後半14分、ブラジル9番フレッジがペナルティーエリアの外からミドルシュートを放つも、蹴りの勢いが全然なく、弱々しいボールは難なくGKノイアーがキャッチ。
このシュートミスでスタジアムのブラジルサポーター、完全にキレました。ブラジル人のフレッジに対して大ブーイング。
フレッジは開幕戦のクロアチア戦で後半25分、ペナルティーエリア内で相手選手に倒され、PKを獲得しています。この判定では日本人審判の西村さんに批判が殺到しました。
西村さんの判定は「どちらとも取れる」と私はSNSで書きました。PKという判定でも致し方ないし、フレッジの倒れ方がワザとらしかったのでノーファウルでも良かった。
私はフレッジの大げさな倒れ方に嫌悪感を抱いたので、それもSNSで同時に書いていました。まあこれは日本人びいきというのもありますし、とにかく西村さんは世界的な批判を浴びました。
続く2試合目のメキシコ戦でブラジルは0-0のスコアレスドロー。負けてはいないけれど、この試合でフレッジはシュートをことごとく外し、勝ちを逃す原因となった「戦犯」としてブラジル国内のメディアやファンから批判されるようになります。
次のカメルーン戦でフレッジは得点を決め、フレッジ批判も少し収まったかに見えました。
しかし今回の準決勝でフレッジは、またしてもペナルティーエリア内で大げさに倒れ、ファウルをもらいに行くというプレーを2回もやらかしてます。
どちらも主審はスルーし、2回目に至っては「コケる演技してないでシュート打て!」と一部の観客に思われたらしく、軽いブーイングが発生していました。
そして致命的となった弱々しいミドルシュート失敗。遂にブラジルサポーターがフレッジを見限った。
このプレイ以降、フレッジがボールを持つだけでスタジアム内は壮絶な大ブーイングが響くようになりました。
ブラジルサポーター、敵のドイツを応援し始める
後半24分、ペナルティーエリア内でドイツ16番ラームの横パスをドイツ9番シュルレが押し込み、ドイツは6点目。
シュルレは後半13分にクローゼと交代で投入されていましたが、今回も途中出場で結果を出しました。
このシーンもブラジル守備陣は、途中交代選手のマーク引き継ぎがズタズタで、誰もシュルレのマークについていません。
6失点目の直後、国際映像に映ったのは、なぜかベンチの椅子に座ってるフレッジ。私は「ええ!?」と驚いた後、爆笑してしまいました。
失点直後、フレッジは選手交代でコッソリとベンチに下げられたようです。猛烈なブーイングを浴びないようにという監督の配慮だったのかもしれません。
しかし国際映像カメラに撮られてしまったフレッジがスタジアムのヴィジョンに映った瞬間、やっぱり猛烈なブーイングがスタジアムに鳴り響きました。
フレッジに代わって投入されたのは19番ウィリアン。ちょっと安堵した私。
今大会で絶望的なプレイばかりしていた21番ジョーだったら、ブラジルは更に悲劇的なことになっていたでしょう。
後半34分、左サイドからドイツ13番ミュラーが出したパスを見事な足技でトラップしたドイツ9番シュルレ、ゴール左上に絶妙なシュート。ドイツは7点目。シュルレは途中出場ながら2点目です。
このとき、スタジアムにいたブラジルのサポーターたちが立ち上がり、シュルレの得点に対して拍手を送っていました。
いくら見事なシュートだったからって、敵の得点ですよ。もうブラジルはサポーターすらも崩壊していました。
その後、ドイツが華麗にパスを回して繋ぐ光景にブラジルサポーターたちが「オーレ!」の大合唱。
ブラジルサポーターたちがドイツを応援し始めた、と表現してるメディアもありましたが、実際のところは試合なんてどうでも良くなっちゃったのでしょう。ストレス発散のためにお祭り騒ぎがしたかっただけなのだと思います。
圧倒的アウェイの中で厳しい闘いを強いられるはずが、まさか敵サポーターから声援を送られるとは、ドイツ選手たちもまったく想像していなかったでしょうね。
それが嬉しくて調子に乗ったのか、ドイツは最後の最後でやらかします。ノイアーも激怒していたし、私自身もテレビの前でブチギレたシーンでした。
ドイツ、最後の最後で舐めプレイをやらかす
試合終了間際の後半45分、ドイツの攻撃でまたも難なく敵陣ペナルティーエリア内に進入したドイツ8番エジル。
GKと1対1になり、8点目は確実と思わせたそのシーン、エジルは余裕ぶっこき過ぎて軽く蹴り、シュートは枠内にすら飛ばず失敗。完全な舐めプレイでした。
直後、ブラジルはカウンター攻撃を仕掛けます。ゴールキーパーから繋いだロングフィードを受け取り、ブラジル11番オスカルがシュート。
このシュートが決まり、最後の最後でブラジルはようやく1点を返しました。しかしオスカルに笑顔なし。
遂に失点してしまったノイアーは味方守備陣に激怒。怒鳴りまくっていました。
エジルの舐め過ぎシュートも論外ですが、その直後にカウンターを喰らった時点で、敵陣に突き進むオスカルを追っていたドイツ守備陣は20番ボアテング、ただ一人でした。舐めプレイにもほどがある。
今大会、対戦相手がどれだけバテていてもドイツ選手達は常に走ってるし、得点リードしてても守りに入らず姑息な時間稼ぎもせず、次の1点を獲るために攻める姿勢を見せてくれていました。
手を抜かず、気も抜かない。そんなドイツの姿勢を世界中のサッカーファンが支持していたのです。
そのドイツが7点差にもなると、こんな舐めプレイに走ってしまうんですね。確かに強さはイヤというほど見せつけられ、ドイツチームは輝いていましたが、エジルとドイツ守備陣によるふざけたプレイには大いに失望させられました。
これだけの大量リードで、しかもスタジアムの空気が自分たちに心地良い状態になり、敵のホームなのにパス回しでオーレ言ってもらったりゴールシーンに拍手してもらえたらそりゃルンルンですわね。とてもラクな試合展開になったら、あのドイツでさえ油断や慢心をするのだということが分かりました。
逆に考えると、オスカルのシュートが決まらず7-0で試合が終わっていたら、ドイツ選手はもっともっと慢心していたかもしれません。
ノイアーが激怒したのは救いだし、レーヴ監督もおそらく試合後、引き締めにかかったはずです。
大敗したブラジルは不名誉な記録を次々と樹立
試合は7-1でドイツが圧勝という結果。
この試合でブラジルは不名誉な記録を続々と樹立してしまいました。
- W杯準決勝で7失点したチームは史上初。
- W杯準決勝で6点差で負けたチームは史上初。
- W杯におけるブラジルの最大失点記録。(それまでの最大失点記録は1954年スイス大会、準々決勝のハンガリー戦における4失点)
- ブラジルが公式戦で7失点したのは1934年6月のユーゴスラビア戦で喫して以来、80年ぶり。
- ブラジルが公式戦で6失点差負けしたのは、1920年9月のウルグアイ戦で喫して以来、94年ぶり。
ブラジル、地元優勝の夢は消えました。
今回の大敗は「ベロオリゾンテの惨劇」「ミネイロンの悲劇」などとメディアで呼称されています。マラカナンの悲劇を払拭するどころか、新たな悲劇を生んでしまいました。
ベロオリゾンテは試合会場の街の名前(ベロオリゾンテ市)、ミネイロンはスタジアムの愛称です。
歴史的な大惨敗。ブラジルのサッカー史にまた一つ、消しようのない傷が残ってしまいました。
初戦で活躍したものの、以降は本領を発揮できたとは言えないオスカル。最後にシュートは決めても救いにはならず、試合後はチアゴ・シウバの胸で泣き崩れ、スタッフに抱えられて退場。
背後に写っているブラジル代表のスコラーリ監督は、大会終了後に代表監督を辞任しました。
ブラジル国民の思いに加えて、欠場したネイマールやチアゴ・シウバの思いまでも抱えて試合に臨んだダビド・ルイス。彼だけに重い荷物を背負わせるのは酷すぎました。
いつも闘志あふれるプレーで味方を鼓舞していたダビド・ルイスが目を真っ赤にして泣いている。それを慰めるチアゴ・シウバ。
ネイマールがいなかったから負けたという話があるけれど、実際はチアゴ・シウバがいなかったから負けたんだな、という気がします。
もちろんネイマールがいれば、もっとネイマールにボールが集中したんだろうし、彼を起点とした攻撃のバリエーションなり、ボールの収まりなり、得点の決定力もある。防戦一方の展開にはならず、もう少しは攻撃の時間帯を作れたかもしれない。
ただ、仮にネイマールがいたとして、その上でチアゴ・シウバがいない状態でドイツと対戦してたとすれば、やっぱりブラジルは大敗していたように思います。「たられば」だし、実際にやってみないことには分からないですけどね。
かえすがえすも前の試合での、チアゴ・シウバのつまらない不必要なイエローカードが残念でならない。
ブラジルを倒したドイツは、決勝戦でメッシ率いるアルゼンチンと対戦。
試合は0-0のスコアレスにより延長戦に突入。延長後半にドイツのゲッツェがゴールを決め、ドイツが24年ぶり4回目のワールドカップ優勝を果たしました。
一方、準決勝でドイツに大敗したブラジルは3位決定戦でオランダと対戦し、0-3で敗れています。