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ビリー・ジョエルのアレンタウンを聴くと今も彼女を思い出す

2014年7月12日

長女に催促されて昔話をした

Allentown

うちの長女は現在、中学2年生の14歳。

昨日長女と雑談をしている中で、仲の良い友達が彼氏から誕生日プレゼントにネックレスをもらい、その値段が結構高くてみんなでビックリした、という話を聞いた。

お前は男の子からプレゼントもらったり、逆にあげたりとかはないの? と訊くと、

「は? ないない、私は▲▲さんLOVEやもん」

と知らない名前を口にした。聞けば正体は「歌い手」。最近はネット動画で彼の音楽を聴くのが好きという。

俺が中2の頃、付き合ってる彼女いたけどなあ、と話すと

「え! マジ! どんな人! 出会いは! 告白は!」

と必要以上に食い付いてきたので話してあげた。今から30年以上も前の話。

毎日家電店に通った

中学2年で14歳だったある日、両親と共に行った家電店、そのレーザーディスク販売コーナーでビリー・ジョエルのライヴ映像がデモで流されてた。それがビリー・ジョエルとの出会い。

洋楽はビートルズが大好きで毎日聴いていたが、ビリー・ジョエルの曲はおろか名前すら知らなかった。でも店頭のデモ映像で流れる曲はどれも素晴らしい。

中でも衝撃的だったのが「Prelude / Angry Young Man」、邦題は「プレリュード/怒れる若者」の演奏シーン。イントロで腕が分身するかのような高速連弾に鳥肌が立つ。

Prelude / Angry Young Man

Prelude / Angry Young Man

収録アルバム『Turnstilesビリー・ジョエル ColumbiaAmazonデジタルミュージック

翌日から学校の帰りに毎日、その家電店に寄ってビリー・ジョエルのレーザーディスクを見てた。3週間くらい毎日欠かさずビリー・ジョエル。

おそらく店員は毎日ビリー・ジョエルを眺めに来る中学生の存在に呆れていたことだろう。

レコード店で彼女と会った

後日、当時欠かさず聴いてたラジオ番組でビリー・ジョエルの「アレンタウン」が流れた。新曲だという。

すごく気に入って、この曲が入ってるアルバムを買おうと即決。収録アルバムは「ナイロン・カーテン」という、リリースされたばかりの新譜。(1982年9月リリース)

週末、行きつけのレコード店に「ナイロン・カーテン」を買いに行ったが売り切れ。あきらめきれず市内のレコード店を幾つも巡ったが、全て売り切れ。

絶望して途方に暮れながら街を歩いていると、背後から肩を叩かれ名前を呼ばれた。振り向くと女の子がニコニコしながら立ってる。誰なのか分からない。

少し考え、思い出した。同じクラスの女子

学校では物静かで、大声を出して騒いでる姿は記憶にない。授業中も特に発言しない。全く目立たない地味な印象。おそらく彼女と会話したのはその時が最初だったように思う。

「レコード探してたの?」

と彼女。最後に立ち寄ったレコード店の中にいるのを発見し、後をつけて来たと言う。

「そんなに欲しいならレコード取り寄せてもらえば?」

そうか、そういう手があったか。取り寄せなんて一度もしたことなかったから思い付かなかった。

最後に立ち寄ったレコード店に戻る。「私も一緒に行く」と言って彼女もついてきた。

「取り寄せ出来ますよ。ただこの前もすぐ売り切れたし、1ヶ月くらいかかるかもしれませんね」と店員。

1ヶ月も待つのはツラい。どこか他のレコード店ならもっと早く入荷するかもしれない。

悩んだ結果、取り寄せを頼むのは止めて数週間後にまた店巡りをしようと決めた。その日の購入は断念。店を出て、彼女にバイバイと告げてから帰宅。

彼女からの予期せぬプレゼント

1週間後の休日、昼に自宅でTVを見ていると彼女から電話がかかってきた。なぜうちの電話番号を知ってる? と驚いて聞くと、同級生の男子生徒から教えてもらったと言う。

彼女の指示に従い、自宅近くの公園に向かう。先に到着してた彼女は何かの包みを差し出した。開けてみるとアナログレコード盤。「ナイロン・カーテン」だった。

え?

「それプレゼント」と彼女。

意味が分からなくて混乱した。1週間前に1回会話しただけの、そんなに仲が良い訳でもない女の子からいきなりレコードをあげると言われる。しかも一番欲しかったレコードだ。どうリアクションを取ればいいのだ。

数秒ほど無言で固まってしまったが、結局素直に「ありがとう」と告げ、レコードはもらった。しかし物静かな彼女と大混乱中の自分、それ以降の会話が続かず互いに沈黙して10分ほど過ごし、彼女は笑顔で「じゃあね、バイバイ」と言ってから去っていった。

自宅に戻り、狂ったように何度もナイロン・カーテンを聴きまくった。女の子からレコードをプレゼントされたことなんて、すっかり忘れていた。

数日後、学校の昼休憩中に彼女が近付いてきて、小声で「音楽室に行こうよ」と告げる。音楽室で何をするつもりなんだ。少々緊張しながら彼女の後ろを歩いて音楽室へ。

ピアノの前に座った彼女は、「ナイロン・カーテンでこの曲が一番好き」と言ってから「アレンタウン」をピアノで演奏した。ものすごくビックリした。

初めて家電店でビリー・ジョエルと出会った時のように感動し、鳥肌を立てながら彼女の演奏を聴いた。後で教えてもらったが、彼女はピアノ歴8年。幼稚園の頃からピアノを習っていたという。

すごい偶然なんだけど、俺もその曲が一番好きなんだよ、と演奏を終えた彼女に伝える。

「気が合うね」と彼女は嬉しそうに微笑んだ。あの時プレゼントしてくれたアナログ盤のレコードを彼女はもう1枚、自分のために購入していたらしい。

それから数回デートをして、彼女のほうから告白され、我々は交際を始めた。中学2年の14歳、紅葉の綺麗な季節だった。

Allentown

Allentown

収録アルバム『Greatest Hits Volume I & Volume IIビリー・ジョエル Columbia/LegacyAmazonデジタルミュージック

別離、進学、卒業

冬休みが終わって3学期、私と彼女は破局した。交際期間は半年も続かなかった。

理由は、自分が幼稚だったから。

彼女の些細な行動や言動を誤解し、ケンカになった。彼女は何度も謝った。彼女は何も悪くない。悪いのは全部こっちだ。それは分かってるのだが、どうしても彼女のことが許せなかった。

最後は一方的に別離を告げた。学校の帰り道、何度も彼女に待ち伏せされ、泣きながら謝罪されたり復縁を迫られたりしたが全て無視した。今でもその時のことを思い出すと自分への嫌悪と後悔で胸が締め付けられる。

中学3年生で受験生となり、第一志望の高校に合格。彼女は別の高校を志望していると交際していた頃に聞いていたのだが、高校の入学式で彼女の姿を発見し、とても驚いた。なぜ志望校を変えたのか、理由は知らないし考えないようにした。

高校に入学してからも彼女を拒み続けた。ときどき廊下ですれ違った際、彼女が話をしたい素振りを見せていたのは気付いていた。しかし視線すら合わせようとしなかった。

高校生活の3年間で数人の女性と交際し、そして卒業式を迎えた。卒業証書を持って級友たちと下駄箱に向かう途中、視線の先に彼女が立っていた。

「元気でね」と彼女は言った。「ありがとう」と返した。

高校時代に彼女と会話をしたのはそれが最初で最後だった。彼女は一瞬だけ泣きそうな表情を見せ、すぐ背を向けて下駄箱と反対側に走り去って行った。

あの娘にアタック

高校卒業から2年後、20歳の時。実家に帰省中、街で偶然彼女と再会した。

歩いてる彼女に気付き、こちらから声を掛けた。彼女はとても驚いた表情をしたけれどすぐ笑顔になった。彼女に誘われる形で喫茶店に入った。

ずっと謝りたかった、と正直に彼女に告げた。中学生の時、ヒドい事をしてしまった。高校生になっても無視し続けた。俺の行動や態度は最低だった。傷付けてる自覚もなく、そのことに高校を卒業するまで気付けなかった。幼稚で無神経で自分勝手で、他人の気持ちを分かろうともせずバカだった。たくさんイヤな思いをさせた。ごめんなさい。

「大丈夫だったよ」と彼女は笑顔を作りながら言った。会話は出来なかったけど、別にキライになったわけじゃなかったし。それにね、ずっと恋愛感情があったわけでもなかったから。

高校の時、付き合った人いた? と彼女に訊いた。

「うん、いたよ」と彼女。「今も彼氏いるよ」

店内の有線でビリー・ジョエルの「あの娘にアタック(Tell Her About It)」が流れ始めた。「すごい偶然」と彼女はクスクス笑った。

Tell Her About It

Tell Her About It

収録アルバム『An Innocent Manビリー・ジョエル ColumbiaAmazonデジタルミュージック

「中3の時だね」と彼女。意味が分からず「何が?」と聞き返す。

「イノセント・マン(注:収録アルバム名)が出た年だよ。中学3年の時だったでしょ」と彼女。

「この曲ピアノで弾ける?」と彼女に訊く。

「もちろん」と彼女は胸を張って頷き、お互いに顔を見合ってプッと吹き出し笑った。

喫茶店で1時間ほど会話をして、最後は互いの現住所と電話番号を教え合い、店を出て我々は別れた。じゃあね、と言うと、彼女は「いないよ」と返した。

また意味が分からず、「何が?」と訊いた。

「いないよ、今も前も」とだけ彼女は答え、バイバイと言って手を振ってから小走りに駆けて去った。彼女の背中を見つめながらもう一度、心の中で謝罪した。

それ以降、彼女とは会っていない。互いに1回ずつ手紙を出して、彼女とは音信不通になった。その後、大学2年生の終わり頃に1人の女性と出会った。

「それがお前のお母さん」と私は長女に告げた。

「▲▲さんのCDをプレゼントしてくれる男子がいたら付き合ってあげてもいいかな」と、歌い手の名前を出してニヤニヤする長女。

俺が言いたかったのはそういうことじゃないんだよ、と苦笑しながら私が言うと、長女は楽しそうにワハハ〜と笑った。

もう30年以上が過ぎた今になっても、アレンタウンを聴くと笑顔でピアノを弾いてる中学生の彼女を思い出す。

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