ヒデオ・イタミのドキュメント動画が公開中
全日本プロレスでデビュー後、三沢光晴選手が旗揚げした団体「NOAH」に移籍し、団体の各種タイトルを獲得したイケメン選手、KENTA。
彼は2014年7月にアメリカ最大のプロレス団体・WWEと契約を交わし、現在は下部組織のNXTで活動を続けています。
そんな彼がWWE年間最大のイベント「レッスルマニア」にNXT代表として出場するまでのドキュメント映像が公開されています。日本語字幕つきのバージョンがありましたので、まずはそちらをご覧ください。とても熱い内容です。
さらに、この動画に関する補足解説を書いています。「NOAHでのKENTAは大好きだったけどWWE入団以降はよく知らない」というファン、逆に「WWEは毎週見てるけど日本時代の彼はよく知らない」というファン、そしてWWEそのものに詳しくない方々の理解を深めるキッカケとなれば幸いです。
ドキュメント映像の補足
それでは動画の補足解説。動画の一部映像をキャプチャーしたので、それを基に解説していきます。
↑ 2014年7月、WWEが日本ツアーを開催。それ以前から「KENTAがWWEに移籍するのではないか」とメディアで報じられていましたが、この日にKENTAのWWE入団が公式発表されました。
WWE日本ツアーの大阪大会、会場は舞洲アリーナ。若手時代は新日本プロレスで大活躍し、WWEを世界最大のプロレス団体に押し上げた功労者ともいうべきレジェンド、ハルク・ホーガンがリング上でKENTAを呼び込みます。ちなみにホーガン、KENTAの公開契約式のためだけに日本に来てます。
ホーガンとWWEオーナーのビンス・マクマホンは不思議な関係で、これまでに何度もケンカと和解を繰り返しています。ホーガンがビンスとケンカしてWWEを退団し、ライバル団体のWCWに移籍したことで、大ブームとなった「nWo」が誕生しています。nWoの人気が大爆発したことでWWEは倒産寸前まで追い込まれました。
↑ ホーガン、そしてジミー・ハート(=ホーガンが現役時代にマネージャー的役割で人気だった人)に手を挙げられ、WWE入団を歓迎されるKENTA。
ホーガンは2014年から再びWWEに復帰していますが、そのホーガンを日本に派遣し、公開契約式という形で入団をアピールしたことで、KENTAに対するWWEの期待の大きさと敬意の念がファンやメディアにも示されました。
↑ 2014年9月、WWEの下部組織「NXT」の特別番組「テイクオーバー」にKENTAが登場。NXTはそれまで日本で放送されていなかったのですが、この「テイクオーバー」はKENTA登場のため緊急放送され、私も見ました。
(KENTA入団に伴い、NXTは現在CSの「J SPORTS」で毎週レギュラー放送されるようになっています)
NXTのGM役、ウィリアム・リーガル(=この人も新日本プロレスに何度か参戦してます)に呼び込まれリング上に登場したKENTA。場内は割れんばかりの「KENTA!」コールで歓迎。KENTAの名前はアメリカのプロレスファンの間でも有名なのが分かります。
↑ WWE入団の喜びを全て英語でスピーチしたKENTAは、リング上でリングネームの変更を宣言。NXTでの新リングネームを「ヒデオ・イタミ」だと発表しました。
KENTAという名前がアメリカでもかなり浸透してるのに、もったいねえな〜とテレビを見ながら私は首をかしげてましたが、WWEなりの事情があるんでしょうね。他のレスラーも大半が名前を変えられてるし。
ヒデオ・イタミという名前は「痛みの英雄(Hero of Pain)」というニュアンスを込めて名付けられたのだそうです。
↑ 彼はアメリカに単身赴任だったんですね。奥さんやお子さんがいるのも知りませんでした。
↑ 今おそらくWWEで観客からの支持が最も高い人気者、ダニエル・ブライアン。2014年のレッスルマニアでWWE世界ヘビー級王座を獲得し、小さい身体ながら団体の頂点に立ちました。
彼は「ブライアン・ダニエルソン」というリングネームでNOAHに参戦していたことがあり、KENTAとGHCジュニアヘビー級王座を賭けて激しく闘っていたそうです(私は見てない)。KENTAがWWE移籍を決意した理由の一つに、NOAHで共に闘っていたブライアンの大躍進もあったと言われています。
ちなみにブライアンが最近フィニッシャー(=日本でいう必殺技みたいなもの)として多用している「ランニング・ニー」という技は、KENTAのオリジナル技「ブサイクへのヒザ蹴り」からヒントを得ています。「KENTAにたくさん蹴られて覚えたよ」みたいなことをブライアン本人が語ってました。
↑ 2015年3月、レッスルマニア31にNXTから一人だけ参戦できる出場枠を賭けたトーナメント戦に出場。決勝戦でフィン・ベイラー(=新日本プロレスで長期間「プリンス・デヴィット」という名で活動していた選手)に勝利し、ヒデオはレッスルマニア出場権を獲得。
↑ 試合後、バックステージで団体COOのトリプルHから祝福されるヒデオ。トリプルHは長髪がトレードマークでしたが、数年前にアンダーテイカーとの対戦が決定した際、覚悟を示す意味で丸刈りにして以降この髪型。最近は試合出場を減らし、悪の権力者として番組出演を続けてます。
左にいるのは「ドラゴン」藤波辰爾。彼はWWEに所属しているわけではありませんが、2015年WWE殿堂入りが発表され、レッスルマニア前日の殿堂者セレモニー「ホール・オブ・フェイム」に出席するため渡米していました。
「元祖GTS」はアメリカで認知されている
↑ 別の日、試合を待つバックステージでのヒデオ。
その向こうにいる女性はNXT所属のディーバ(=女性レスラー)、シャーロット。名レスラー、リック・フレアーの娘さんで、昨年はNXT女子王者にも輝いています。
↑ 入場するヒデオを大歓声が迎え入れます。
↑ ヒデオ・イタミではなくKENTA時代のフィニッシャーだった「GTS」(日本での正式な技名は「go 2 sleep」)をリクエストする観客たち。これには理由があります。
WWEでは各レスラーがフィニッシャーの技を持ち、オリジナルのフィニッシャーは他の選手が使ってはならないという暗黙の了解があります(チョークスラム系やDDT系など一部例外もあります)。
また、WWEでは大抵の場合、そのフィニッシャーが出たら試合は終わります。文字通り「必殺技」扱い。PPVなど大きな大会での試合になるとフィニッシャーを1回や2回カウント2で返して盛り上げることもあるんですけどね。
で、GTSはKENTAが日本で開発したオリジナル技。相手を両肩にかつぎ、前方に落とす際にヒザ蹴りを相手の顔面や胸などに叩き込む荒技。
しかしこのGTS、以前WWEに所属していた人気レスラー、CMパンクがフィニッシャーにしてました。CMパンクは2014年1月のPPV「ロイヤルランブル」翌日に団体側とモメてWWEを電撃退団。しかし契約が夏頃まで残っていたため、他団体には出場できませんでした。
KENTAがWWEに入団した時、すでにCMパンクはWWEに登場しなくなってたんですけど、契約の問題が残ってたのか、ヒデオ・イタミはGTSを使うことができず、NXTデビュー戦ではダイビング・フットスタンプで勝利しています。
ファンからの支持が絶大だったこともあり、CMパンクが団体側と和解して電撃復帰というウワサも流れてたのですが、結果的に復帰はせず正式に退団が発表され、晴れてヒデオ・イタミはGTSを使えるようになったと。
↑ しかしヒデオ・イタミ、GTSを試合の最後で出そうとするものの、対戦相手が防いだり逃げたりしてGTSを決められず、未遂に終わるというのを何度も繰り返してました。
その「元祖GTS」がこの日初めてNXTで決まり、ファンが大喜び&大騒ぎになったというわけです。Twitterのトレンドワードにまでなったらしいので、どれだけファンが待望してたかってことですね。
↑ ホーガンも言ってますが、GTSの元祖がヒデオ・イタミ(KENTA)だというのはアメリカのファンも当然ながら認識してます。CMパンクが団体を去ったのもあり、ヒデオにGTSを継いで欲しい(っつうか彼が元祖なんだけど)という思いがファンにもあったのかも。
↑ WWE会長ビンス・マクマホンの娘、ステファニー・マクマホン。若い頃からWWEの番組に出演し、トリプルHと結婚して悪役となり、その後離婚するというストーリーを演じたものの、実生活で本当にトリプルHと恋愛関係になり結婚。
現在は娘さんがいる母親ながらWWEの重役でもあり、トリプルHと共に「悪の権力者夫妻」として番組出演を続けてます。昨年のPPV「サマースラム」では久々に試合もしました。
KOパンチを喰らった意義
↑ 2015年3月26日、WWE年間最大のイベントである「レッスルマニア」。今年が31回目となった祭典に初出場するヒデオ。会場となったリーバイス・スタジアムが見えてきて緊張が増してる様子。
↑ 前日の殿堂者セレモニーで殿堂入りを祝福され、レッスルマニアでもステージ上で紹介された藤波辰爾と談笑するヒデオ。
中央に立ってるのはフナキ。藤原組やバトラーツで活動後、当時結成していたユニット「海援隊」でTAKAみちのくやディック東郷たちと共にWWE移籍。TAKAたち他のメンバーが次々と退団する中、フナキだけはWWEに残って長年活躍。
多くのWWEスターに愛される存在で、今も英語の発音がナマってるレスラーがいると「フナキよりは上手だ」と実況陣にイジられたりしてます。
現在はWWEエージェントとして活動しつつ、ヒデオがNXTに登場した時は通訳として番組出演もしてました。
↑ ただいま人気沸騰中の「狂犬」ディーン・アンブローズと試合前に握手。悪役からベビーフェイスに転向したのに悪役よりも凶悪な試合をしつつ、でも笑いも取っちゃうので愛されキャラになっています。
↑ いま最もプッシュされているセス・ロリンズ。彼もNXT王座を獲得して注目され、1軍昇格してからステイタスを上げ続け、現在のWWEにおけるストーリーラインはロリンズを中心に動いています。
この日の試合に関して直前に大幅な変更が入り、ヒデオと談笑してる前後のロリンズも実は大変な状況だったと思われるのですが(分かる人にだけ分かる書き方を敢えてしてます)、俺はレッスルマニアに3年かかったのにオメエは半年かよー、と声をかけてるロリンズ優しい。
この日のレッスルマニア、メインイベントはロリンズによる超サプライズで「史上初」の展開となりました。ネタバレになるから伏せます。
↑ 遂に夢の舞台、レッスルマニアのリングに上がったヒデオ。彼が1軍の試合に登場するのは初めて。会場となったリーバイス・スタジアムは約7万6千人という大観衆。ヒデオ本人だけでなく、見てるファンも胸が熱くなるシーン。
↑ レッスルマニアは1年間で積み重ねられたWWEストーリーラインのトリを飾る重要な大会。なので誰も彼もが出場できるわけではありません。
そんな中、1人でも多くの選手を出場させようという救済策の意味合いもあってか、2014年から開催されてる「アンドレ・ザ・ジャイアント杯争奪バトルロイヤル」。今年が2回目。デカイ選手たちが30人同時にリングで暴れ回るから大混雑。
↑ ヒデオはボー・ダラスを得意の蹴りで場外に落とし、脱落させます。アメリカのバトルロイヤルはトップロープを越えて場外に落ちたら負けというルール。
ボー・ダラスはマイケル・ウォールストリート(日本ではマイク・ロトンドという名前が有名で、スティーブ・ウィリアムスと「バーシティ・クラブ」というユニットを結成してた)の息子。
彼の実兄も「ブレイ・ワイアット」というリングネームでWWEに所属しており、不気味な精神錯乱キャラとしてプッシュされてます。ワイアットは今年のレッスルマニアでアンダーテイカーの対戦相手に大抜擢されました。
↑ 「大巨人」ビッグ・ショーに目をつけられちゃった。この体格差。
↑ エプロンに放り投げられたヒデオ。最後はビッグ・ショーのフィニッシャーであるKOパンチを喰らい、リング下に転落して敗退。アンドレ杯争奪バトルロイヤルは日本で未放送だったため、ヒデオの試合内容がどうだったか詳しくは知らなかったのですが、KOパンチを喰らってたんですね。
ビッグ・ショーは現在、泣く子も黙る極悪ヒールを演じてます。対するヒデオは日本で有名だったレスラーとはいえ、WWEでの立ち位置というか、ビッグ・ショーからしてみれば「デビューして半年の若造」で「NXTから運良く出場できただけ」という設定でもいいわけです。
そういう「若造」的なシチュエーションにするのであれば、ビッグ・ショーが無造作にヒデオをポイとリング下に放り捨てるというムーブにしても良かったはず。
しかしビッグ・ショーはフィニッシャーのKOパンチをヒデオに浴びせた。フィニッシャーは誰にでも出すような技ではないので、これだけでもヒデオに対するWWEの期待感みたいなものが伝わってきます。私は鳥肌が立っちゃった。
↑ 大観衆を眺めながら退場し、バックステージの通路でしゃがみこむヒデオ。どういう感情だったのだろう。私はここで少し泣きました。
↑ タッグユニット「ニュー・デイ」の3人が笑顔でヒデオの健闘をたたえてます。手前のウッズも奥のビッグ・Eも、NXTから這い上がった苦労人。
↑ NOAHで激闘を重ねたライバル、ブライアンもバックステージでヒデオと握手。ブライアンはこの後、インターコンチネンタル王座決定ハシゴ戦で凄まじいファイトを見せてくれました。
↑ お。スイート・Tだ。彼は「Aトレイン」のリングネームでWWEに所属後、解雇されて「ジャイアント・バーナード」というリングネームとなり、全日本プロレスや新日本プロレスで大活躍。
2012年にWWE復帰した際、「日本で圧倒的強さを誇った」という触れ込みで「テンサイ」というリングネームとなり、カタコトの日本語を叫びながら悪党ファイトを繰り広げたかと思ったら、突如ヘンな踊りをする愛されキャラに変貌し、気付いたら現役を引退して、現在はWWEでエージェントしてるみたいです。
↑ WWEの大ベテラン、マーク・ヘンリーもヒデオに温かい言葉をかけてくれました。
↑ ビッグ・ショーもバックステージでは笑顔でヒデオと握手&ハグ。今は怖い怖い大ヒールでも、ビッグ・ショーがイイ人なのはWWEファンみんな知ってます。
りくま ( @Rikuma_ )的まとめ
PPVで放送された今年のレッスルマニア31では、アンドレ杯争奪バトルロイヤルは「事前番組」扱いだったので日本では放送されませんでした。しかし6月24日発売予定のDVDには特典映像としてバトルロイヤルも収録されてるようです。
今年のレッスルマニアは他にもメインでのサプライズあり、「UFC最強の女」がハリウッドの大スターとなった「あの男」と共にリング登場してステファニーと対峙する名シーンもあり、見どころ満載。
我々世代に最も嬉しいのは、1990年代にWWEと視聴率戦争を繰り広げたライバル団体WCW、その象徴的存在だったスティングが今年のレッスルマニアに出場し、WWEで初めて試合をしました。
WCW崩壊後もただ一人WWEと関わりを持たなかった孤高の戦士が15年の時を経てWWEに出現。そのスティングの敵なのか味方なのか、オリジナルnWoの3人(ホーガン&ナッシュ&ホール)が乱入してくるという驚きの展開はファン必見。
藤波辰爾を始め、故ランディ・サベージや、全日本女子プロレスで活躍していたメデューサ(WWEでのリングネームは「アランドラ・ブレイズ」)も殿堂入りした式典も特典映像として収録されているみたいです。今年のレッスルマニアは日本のプロレスファンにも馴染みの人たちが多く登場していました。
日本での地位を捨て、単身で世界最大のWWEに乗り込んだヒデオ・イタミ。1軍だけでなく下部組織のNXTも選手層が厚い中、熱いファイトでアピールを続けています。日本のファンとしては1軍昇格が待たれるところ。これを書いてる2015年6月現在、彼は肩を脱臼して長期欠場に入ったらしく残念なのですが、元祖GTSをRAWやスマックダウンで見られる日が来るのを期待しています。