簡単な歌詞解説
今回のお題は、1964年にリリースされた4枚目のアルバム『ビートルズ・フォー・セール』の1曲目に収録されている「ノー・リプライ(No Reply)」という曲。
シングルではないので、それほどメジャーな曲ではないかもしれません。
No Reply
今回の歌詞は、なかなか寂しい内容となっております。失恋ソングって訳でもないですが、解説していきます。
最初からイキナリ寂しいです。
This happened once before
When I came to your door, no reply
(以前こんなことがあった。キミの家まで行ったけど、返事がなかった)
寂しいでしょ。
They said it wasn’t you
But I saw you peep through your window
(キミじゃなかったと言われたけど、窓からキミを見たんだよ)
見てたんですよ。
ここで登場する「they」というのを、私は「友人」と今まで捉えてたのですが、「彼女の家族」と捉えて翻訳してるところもあります。なるほど。
家族だとすると、玄関で親に「娘なら今いないわよ」と言われたってことだし、友達なら「それはお前の見まちがいだよ」って感じになります。私は今まで後者で考えてました。
「peep」は「のぞき見する」とかの意味。「peep through」で「隙間から見える」とかの意味になるらしいです。
I saw the light, I saw the light
(灯りを見たのさ。灯りがついてたっちゅうねん)
アリバイ崩しにかかっています。
I know that you saw me
‘Cause I looked up to see your face
(知ってるよ。僕のことを見てただろ。だってキミの顔を見たんだから)
動かぬ証拠が出てきましたよ。顔を見たっていうなら部屋の灯りはもうどうでもいい気がするけど、置いといて。
「look up」は「見上げる」。2階の窓に女が見えた、っていうのを地上から男が見上げてた感じですかね。
2番の歌詞はもっと悲惨ですよ。
I tried to telephone
They said you were not home, that’s a lie
(電話もかけたよ。家にはいないと言われたけど、それはウソだ)
ウソ宣告きました。犯人が分かったときのコナンくんみたい。
‘Cause I know where you’ve been
And I saw you walk in your door
(キミはずっと家にいたのは知ってるし、家に入っていくのも見た)
きっと彼は徹夜で張り込みしてたんですよ。
I nearly died, I nearly died
(死にたかった、もう死にたかった)
一転して泣きが入りました。がんばれー負けるなー!
‘Cause you walked hand in hand
With another man in my place
(だってキミは僕の代わりに他の男と手を繋いで歩いてたろ)
浮気確定しました。ってかそこまで知ってたんかい。
「in my place」は「私の代わりに」。youが入って「in your place」となれば「キミの代わりに」です。
ここからBメロに入るわけですが、受験地獄をかいくぐって来た皆さん、仮定法を覚えてますでしょうか。
仮定法でワケが分からなくなって英語に挫折する人、多いですよね。日本語には存在しない文法と言ってもいいし。
If I were a bird, I could fly to you
(もし僕が鳥ならば、キミの所へ飛んでいけるのに)
この例文がよく教科書にも載ってました。
一人称の「I(私)」だったら、通常はBe動詞が「am」とか「was」とかになるのに、なんで「were」なワケ?っていうのが仮定法。
これはもう、そういうもんだと覚えるしかないんだと思います。そうとしか説明できん。仮定法の時は過去形にするんだと。
で、Be動詞だったらwereにしとけと。普通の動詞や助動詞だったら単純に過去形でいいんですけどね。
Be動詞とか助動詞とか過去形とか分からーん!という方がいるかもしれませんので、サラッと流しましょう。
ひとまず私は、この曲を何度も聞いて「なるほど、仮定法ってそういうもんなんだね」と中学生の時に覚えたんです。そんなもんです。
肝心の歌詞ですが、Bメロの最初、こうなってます。
If I were you I’d realize
That I love you more than any other guy
(もし僕がキミだったら、他のどんな男より僕がキミのことを愛してるって気付くのに)
仮定法になってますね。ちなみに「more than」で「~よりも~だ」「~以上に~だ」という比較級も登場しています。
Bメロの歌詞が続きます。
And I’ll forgive the lies
That I heard before when you gave me no reply
(そしてキミが返事をくれなかった時のウソも許してあげるよ)
涙ぐましいじゃないですか。寛大な心でウソも許すと。
でもね、彼女は浮気確定なの。さあ彼女の心は再び彼の元へと戻るのかっ!
続く。 嘘。
この曲に関する余談・エピソード
映画のサントラ盤でもあり、収録された13曲がすべてビートルズのオリジナル曲だった3枚目のアルバム『ア・ハード・デイズ・ナイト』。
A Hard Day’s Night
4枚目のアルバム『フォー・セール』は、3枚目のアルバム発売からわずか1ヶ月後にレコーディングを開始しています。
これはアメリカでの人気がようやく大爆発し、クリスマス商戦と合わせて「今出せば売れる!」と踏んだ制作側の思惑もあり、急きょ4枚目の制作が決定したらしいです。
3枚目は13曲すべてがビートルズのオリジナル曲でしたが、超多忙な上に時間もなかったせいか、4枚目では全14曲のうち6曲がカバー曲となっています。
今回紹介した「ノー・リプライ」はジョンが作ったオリジナル。これまでの単純明快なラブソング主体から一転し、この曲もジョン・レノンの作風に変化が表れ始めている代名詞的な曲だと言えます。
Aメロの「I saw the light」や「I nearly died」などのパートで高音部はポールがハモってます。このポールの絶叫にも似たコーラスが私は大好き。
ジョンが歌詞に込めた「彼女の気持ちが離れていくのを留めようとする男」の絶望感にも似た感情を、ポールの悲哀に満ちた絶叫コーラスが見事に体現していて、まさにジョンとポールのクリエイティブなイメージが一致してる曲だと感じます。
印象として全体的に少し暗いイメージだとも言われる『フォー・セール』ですが、私は大好きなアルバムです。