史上初、70代でのチャートTOP10入り
先日、NHKの音楽番組「SONGS」でポール・マッカートニーの特集が放送されました。
最新アルバム『NEW』を引っさげてのワールドツアー。そのアルバムは洋楽チャートの2位に入り、年齢70代でのトップテン入りは史上初なんだそうです。すげえなー。
2012年のロンドン五輪開会式で「ヘイ・ジュード」を熱唱するなど、最近はピアノを弾いてるポールの印象が強いかもしれません。しかし、ポールはほとんどの楽器を演奏できます。ソロ時代は全て自分で演奏してアルバム作ってたくらいだし。
ビートルズに加入した当初はギター担当でしたが、当初ベースを担当していたメンバー(スチュワート・サトクリフ)の脱退後はポールがメインでベースを担当するようになりました。以後、ビートルズ時代は大半の曲でポールがベースを弾いてます。
ポールはサウスポー(左利き)。右手もそれなりに器用なので、普通の人よりも速いフレーズをベースで弾くことができ、ギターも担当してることから、ギターソロみたいな感じでベースを弾いてる曲まであったりします。
今回は数あるビートルソングの中でも特にポールのベースが印象的でカッコ良い曲、そして「やり過ぎだろ」ってくらいベースが目立ってる曲を10個選んでみました。
ポールの弾くベースラインが印象的なビートルズの10曲
レディ・マドンナ(Lady Madonna)
作詞作曲とボーカルはポール本人。シングルカットされた1曲で、日本では「ヘイ・ジュード」というアナログ盤のアルバムに収録されていました。
「レディ・マドンナ」はピアノとベースで勝負あり、という感じの曲ですね。ピアノの低音部もベースと同じフレーズを弾いてるところが多く、ベースラインが実に目立ちます。まさにベーシストであるポールだからこその旋律。
間奏などでブーブー言ってる音は、メンバーが口に紙を当てて音を出し、管楽器みたいな音にしているのだそうです。
ゲッティング・ベター(Getting Better)
ジョンとジョージのハモリが心地良い、「サージェント・ペパーズ」の中でもメロディアスな1曲。ポールのベースも高いとこ低いとこと、縦横無尽に泳ぎまくってます。
ユニークなのはサビの部分、歌詞が「I’ve got to admit it’s getting better」で始まるところのベースライン。
1番のサビ(0分25秒〜0分40秒)では曲に合わせて4拍子のフレーズで弾いてます。一方、2番のサビ(1分00秒〜1分16秒)ではいわゆる「裏拍」で弾いていて、全然違うベースラインになってます。
これ、意外と気付いてないファンが多いようなので、ボリューム大きくしてジックリ聴いてみてください。1番と2番のベースラインは全然違うので面白いですよ。
サムシング(Something)
ジョージ・ハリスンが作った曲としてはビートルズ時代に唯一、シングルA面になった名曲です。ジョン、ポールに次ぐ3番手と言われ続けたジョージの才能が遂に結実した、と大絶賛された曲でもあります。
メインボーカルもジョージで、ポールはコーラスとベースを担当。そのベースラインがいろいろ「やらかして」ます。
1番では「おとなしめ」にベースを弾いてるのですが、2番から自己主張が強くなり始め、極めつけは1分42秒から始まる間奏。
ジョージの弾くギターソロが情感たっぷりに優しいメロディを奏でるその裏で、ポールのベースが暴れまくってます。
この楽曲をレコーディングする少し前までジョージとポールの仲は険悪で、映像でも口論してるシーンが残っているくらい。
「サムシング」のレコーディング時に仲が修復していたかまでは分からないですが、ギターソロとベースソロが間奏でケンカしてるような感じ。まさにポールらしいと言えばポールらしい。
ポールはこの曲について「ジョージの名曲に花を添えたくて」みたいなコメントを残してますが、ポールのベースについて「やり過ぎだ」とジョージ本人が怒ってたという説もあります。
たぶんポール、悪気はなかったと思うのです。たぶんね。
ゲット・バック(Get Back)
シングルカットされたバージョンや、アルバム「レット・イット・ビー」に収録されたバージョンでは、(編集や音の加工がされてることもあり)この曲でのポールのベースに対してそれほどインパクトは感じませんでした。
しかし、「ルーフトップ・セッション」で演奏しているバージョンは、生演奏ということもあってメンバーの演奏する音が実に生々しく、迫力がスタジオ録音バージョンとは全く異なる荒々しいうねりのような音を聴くことができます。
「ルーフトップ・セッション」とは、当時撮影していたドキュメンタリー映画のトリを飾るため、ビートルズが自社ビルの屋上(=ルーフトップ)で決行したゲリラライブ。
長らくコンサート活動をしていなかったビートルズの生ライブに近隣の人々が殺到。混雑と騒音のため警察官が演奏中止を要請し、最終的にメンバーも従ったため、ビートルズ4人による解散前最後のセッションは約50分で終了となりました。
ルーフトップ・セッションは「うぅぅ〜指が…」とジョンがうめくほど寒いコンディションで、ギターやベースを弾く指先も相当かじかんでたようです。それでも「ゲット・バック」でのポールは、その寒い中で歌いながらあの高速ベースラインを生で弾いてるわけで、もうそれだけでスゴい。
この曲はジョージではなくジョンがリードギターを担当してますが、ルーフトップの「ゲット・バック」におけるジョンのギターソロも音が鋭利な刃物のように尖っていて、私はいつも鳥肌が立ちます。
なお、アルバム「レット・イット・ビー」はドキュメンタリー映画撮影とアルバムレコーディング(リハーサルを含む)が同時進行でおこなわれており、楽曲中でメンバーの会話が多数録音されてます。それらの会話や独り言が何を言っているのかについて解説記事を書いています。
アルバム「レット・イット・ビー」でビートルズが喋るアドリブまとめ
1970年にリリースされたビートルズ最後のアルバム「レット・イット・ビー」では曲の最初や最後にメンバーが何かを話してる音声が収録されています。歌詞カードには載らないそれらの言葉を日本語訳で紹介します。
レイン(Rain)
イントロからポールのベースがすごいことになってます。
ベース部分だけを聞き取れる方は、イントロからじっくりベースラインを集中して聴いてみてください。ものっすごいウネってます。
またサビの部分で「レイン」というタイトルフレーズを連呼するパートも、ポールはその都度、違うベースラインを弾いて変化を出しています。
曲を作ったのはジョン。ボーカルもジョンですが、この曲の「妖しい雰囲気」とでも言えばいいのか、独特の空気感はポールのベースによる所も大きいのではないかと感じます。
世界で初めて「テープの逆回転」を使って録音したと言われている一曲です。
タックスマン(Taxman)
アルバム「リボルバー」の1曲目。作詞、作曲、そしてボーカル担当はジョージ・ハリスン。
初めてアルバム「リボルバー」を聴いたとき、いきなりオープニングの「タックスマン」で強烈な破壊力を持つポールのベースラインを耳にして「これはスゴいわ」と打ちのめされ、感動してしまいました。
ジョージには悪いけど、これはもうポールのベースに尽きます。インパクトがありすぎる。
特に曲中で1回だけあるBメロ(0分55秒からの「If you drive a car」で始まる部分)では、ベースのリズムが16分音符だか32分音符だか忘れたけど、超高速の速弾き連打。ベースが生き物のようにウネりまくってます。
実際に弾いてるわけではなく、録音したものを早回しして編集してるらしいのですが、とにかく聴くとスゴいです。素人には弾けません。
ちなみにこの曲、ベースだけでも超絶テクニックを披露してるポールですが、リードギターもポールが担当してまして、間奏ではポールならではのギタープレイを聴かせてくれます。
オールド・ブラウン・シュー(Old Brown Shoe)
これもジョージ・ハリスンが作った1曲。最初はシングル「ジョンとヨーコのバラード」のB面としてリリースされたのもあり、アルバムには収録されませんでしたが、演奏全体のドライブ感が猛烈にかっこいい曲です。
ポールのベースラインは、Aメロでは堅実に、あまり目立つことなく、一定のリズムで同じ音を刻み続ける地味な立ち上がり。
しかしメロディーが進むにつれドラムのフィルインのようにベースのオカズが増え始め、Bメロ突入と共に猛烈な自己主張が始まります。ジョージのヴォーカルラインと同期しない、独特の旋律でリピートされるポールの高速ベースは聴き応えあり。
この曲は、ドラム担当のリンゴ・スターが主演映画の撮影のためレコーディングを欠席しており、代わりにポールがドラムを叩いています。
ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイヤモンズ(Lucy In The Sky With Diamonds)
作詞、作曲、ボーカルはジョン・レノン。
別人のように高い声で歌っているジョンですが、実際はテープ回転を早めたことにより音が高くなっています。
今回挙げた10曲の中で、圧倒的に、ポールのベースが最も簡単な曲です。すっごい簡単なので、私は中学1年生の時点でこの曲のベースを全部弾けました。
すっごい簡単なベースラインなのですが、自己主張もすごく激しくて、楽曲の演奏のド真ん中をベースが突っ走ってるような印象を受けます。
ベイビー・ユーアー・ア・リッチ・マン(Baby You’re A Rich Man)
元々は映画『イエロー・サブマリン』のために作られた楽曲。一部分だけが映画の中で使われ、楽曲はアルバム「イエロー・サブマリン」には収録されず、後に「マジカル・ミステリー・ツアー」に収録されました。
2つの曲を合体させており、Aメロの怪しい旋律のパートはジョンの曲、サビでタイトルを連呼するパートはポールの曲です。
この曲はもうイントロ命。当時まだ20代ながら円熟期に入ってきたポールが渋く弾き放つベースラインと、それをサポートするかのように後追いで続くピアノの旋律。
硬めの音でミュートも駆使して、テクニックがスゴいとかメロディーラインがスゴいとかではないんですけど、アレンジがもう天才だ、と改めて思います。
トゥモロー・ネバー・ノウズ(Tomorrow Never Knows)
ジョン・レノンが「ダライ・ラマの説法」をイメージして作った1曲。
インド音楽の影響をモロに受け始めたジョージによる弦楽器タンブーラの独特な音、様々なループやテープ加工により音をつなぎ合わせていく実験のようなレコーディングにより、この曲が誕生しています。
曲全体を通してコードが「C」のみという超極端な構成。ギターなどのコードが途中でわずかにCから派生したコードを奏でる箇所もありますが、単音しかないベースラインは最初から最後まで「C」、つまりドレミで言う「ド」の音しか弾いてない。
延々と「ド」しか弾かないベース。もうヘンタイです。しかし、単純すぎるがゆえにインパクトもスゴい。
タイトルの「Tomorrow Never Knows」という表現はリンゴ・スターの言葉。英語の文法としては正しくないのですが、リンゴがそういう「誤表現」を面白がって使うことがあり、ジョンがリンゴの言葉を気に入ってタイトルとして使ったのだそうです。
ミスチル(Mr.Children)が同じ名前の大ヒット曲を1997年にリリースしていますが、その30年前に作られたビートルズの曲タイトルをそのまんま拝借したもので、曲自体は全然別のものです。
まとめ
今回はビートルズの楽曲限定で、10曲に絞ってみました。ビートルズ解散後のソロやウイングス時代のも入れると、ベースラインが面白いものはもっと沢山あります。
さすがのポールも70歳を越え、幾ら健在とは言ってもさすがに高音部分のキーは声が出なくなってきちゃっています。それでもプライドなのか、音を下げることなく昔と同じキーで演奏してます。裏声でなんとか歌ってるけど、なかなかツラそう。
そういう意味でも、ポールが「現役」で我々の前で、我々と共に歌ってくれる機会は、それほど多くはないのかもしれません。それでも、70歳を越えても「アイム・ダウン」で20代の時と同じキーをシャウトしてるんだからスゴい人です。真のロックンローラーなんですよね。