いろいろ大変だったけど、祝!世界遺産登録
北九州市・中間市の「旧八幡製鉄所関連施設」を始めとした8県23施設で構成される「明治日本の産業革命遺産」が、日本時間2015年7月5日(日)の夜10時過ぎ、ユネスコ世界遺産委員会による審議を経て、無事にというか、ようやくというか、世界文化遺産への正式登録が決定されました。
本来は7月4日(土)の夜に決定されるはずでしたが、情勢が二転三転し、委員会が開催されたドイツのボンでは韓国が異議を唱えたのを発端に相当緊迫した展開となっていたようです。関連施設がある各自治体ではパブリックビューイングなどの式典イベントが開催なのか中止なのか分からず右往左往されてる姿が報道され、気の毒でなりませんでした。
正式登録決定までに至る騒動に関して言いたいことは山ほどあるのですが、書き始めたら止まらなくなりそうだし、文句よりも今回は正式登録されたことで地元の人々や関係者の方々がすごく喜んでた様子をお伝えしたいので、そんな感じのエントリーを書きます。
まずは八幡東区の八幡製鉄所旧本事務所へ
世界遺産への登録が決定されたのは2015年7月5日(日)の夜10時過ぎ。その翌日、7月6日(月)に私は北九州市と中間市の世界遺産施設を再訪してきました。
前回訪れたのが2015年5月初旬。ユネスコ諮問機関であるイコモスから世界遺産登録の登録勧告(=登録は大丈夫だと思いますよ、というお墨付きのようなもの)が発表された直後でした。
官営八幡製鉄所旧本事務所と遠賀川水源地ポンプ室の場所と行き方
「明治日本の産業革命遺産 九州・山口と関連地域」という名称で世界遺産申請されていた施設群が5月4日にユネスコ諮問機関・イコモスより登録勧告されました。そのうち北九州エリアにある4つの施設に関して場所やアクセス方法を調べてみました。
初訪問時の様子は上のエントリーにまとめています。世界遺産の地図や、徒歩での行き方も写真付きで解説していますので、特に初訪問の方々は参考にしてください。
▲ 今回、近くにあるイオンモール八幡東やJRスペースワールド駅の近辺で、スマホを覗きながら考え込んでる様子の人を何組か見ました。皆さん前日のニュースで「世界遺産を見に行こう」となったものの、初訪問で場所や行き方が分からなかったのかもしれず。
▲ スペースワールドのすぐ近くにある東田第一高炉跡。こちらも八幡製鉄所の施設であり、世界遺産申請の当初は関連施設に含まれていたのですが、最終的な選定で除外されてしまいました。
除外されたのは残念だなと感じていたのですが、今回観光ガイドさんに「なぜ除外されたか」の詳細を教えてもらいました。
この東田第一高炉、最初に稼働したのは1901年(明治34年)であり、この時期だけで考えれば「明治の産業遺産」にドンピシャなんです。だから当初は候補地に含まれていたんだそうです。高炉跡の上部に設置されてるパネルの「1901」という数字は初稼働した1901年を意味しています。
現存している上の写真の高炉跡は「第10次改修高炉」といって、要するに10回建て替えられてるんだそうです。第10次改修高炉が操業を開始したのは1962年(昭和37年)なので、「明治の産業遺産」とは違うとの判断により残念ながら最終的に除外された、ということのようです。
▲ 眺望スペースまでの案内板がリニューアルされてました。ロゴ入りになってます。
この日から写真撮影がOKになった
▲ 八幡製鉄所・旧本事務所眺望スペースの入口に到着。本来は毎週月曜がお休みで、今回訪れたのも月曜でしたが、この日は(世界遺産登録決定の翌日というのもあり)開いてました。
▲ 女性ガイドさんから旧本事務所の絵ハガキをいただきました。眺望スペースの開放日は毎日配布しているそうです。
▲ 記念撮影用のパネルなのかな。私が行ったのは午前中でしたが、午後からは団体ツアー客が訪れている様子をテレビのニュース番組で見ました。
▲ 世界遺産登録後の初日ということもあってか、ガイドさんだけでなく北九州市の職員さんも現地に来られていて、いろんなお話しを聞かせていただきました。
写真右側に写ってるのは世界遺産推進室の室長さん。興味深いお話しをたくさん教えていただきました。
▲ 眺望スペースに向かう通路の右側には、明治期の八幡製鉄所の様子が写真で紹介されています。現在の風景と照らし合わせて見ると大変面白いですよ。これすごくオススメ。
▲ 1901年と書かれてるので、これが第一期の東田第一高炉になるんですね。現在とは確かに風貌が違う。でも明治の時点でこれだけ高い煙突ですよ。北九州の産業を支える屋台骨となっていたのが納得できます。
▲ 1899年の風景。中央少し左側には現存してるのと変わらない風貌の本事務所。その左奥には第一高炉。皿倉山の風景が今も昔も変わらないのは何だか嬉しい。
▲ シャトルバスについても情報収集しました。以下の通り。(注:記事執筆時点での情報です)
◆北九州イノベーションギャラリー(「いのちのたび博物館」の近く)→JRスペースワールド駅→眺望スペース、この区間を20分に1本(=1時間に3本)の間隔で運行している。
▲ 眺望スペース。開放開始された直後だったので、ほとんど観光客はいませんでした。
↑ 前日まで眺望スペース内での撮影は禁止されていましたが、世界遺産登録決定を機に、この日より撮影がOKとなりました。
私は現地で職員さんから聞かされて狂喜乱舞したのですが、前日夜に北九州市長の北橋さんが「明日から撮影OKとなります!」と発表して、会場が拍手喝采となってる様子がニュースで流れてました。北橋市長の発表を知って撮影に訪れた市民の方々も多かったようです。
▲ 自治体(=北九州市)と所有企業(=新日鉄)でずっと交渉が続けられ、双方の歩み寄りのおかげで私も今回ブログに写真を載せることができます。
▲ 気付けば3社ほどテレビ局が取材に来てました。いつの間にか私と観光ガイドさんが談笑してる様子をメッチャ至近距離からテレビカメラが撮影しているのに気付いて「うわっ!」と声を上げてしまいました。それが原因か、ニュース番組で私の姿は映らず。
▲ 私が行った午前の時間帯は観光客が少なかったのもあり、各テレビ局は来訪者が増えた午後の映像を流してました(NHKのみ午前の映像を流し、私の近くにいた人のインタビューが流れていました)。私は報道陣の背後を撮影してからインタビューされる前に逃亡。
▲ 前夜に北橋市長が発表した内容でもう1つ大きなニュースがありました。近い将来(8月中旬を目指すと報道されてました)、バスで本事務所などの施設群までグルリと巡り、世界遺産を間近で観光できることがほぼ決定とのことです。
新日鉄の所有地(私有地)であること、もともと非公開だったこと、敷地内の施設や鉄道などが現在も稼働中であることなどから、仮に本事務所などの施設へ接近して眺めることが出来るようになった場合、特に安全面をどう確保するかが大変重要になってきます。
自由に見物できるのは観光客にとってありがたいことですが、一方でマナーを守らない人がどうしても出てきてしまいます。施設保全の観点からも、観光客自身の安全確保の観点からも、徒歩で自由に散策しながら見物する方式ではなく、バスによる周遊観光という方式でむしろ良いんじゃないかと個人的には感じています。
▲ 世界遺産の登録施設候補として八幡製鉄所の旧本事務所が発表された時、特に地元・八幡東区在住の方々で「え? もう建物はないはずなのに、なぜ?」と不思議に思われた人がとても多かったそうです。
実は今回世界遺産に登録された本事務所は「初代」で、上の写真も初代なんですけど、それとは別の場所に「2代目の本事務所」ってのが建てられていたのだそうです。場所は現在「八幡ロイヤルホテル」が建っているところ(北九州市八幡東区枝光1丁目1-1)。
平成2年頃くらいまでは「2代目」本事務所が存在していて、その後に解体され、平成6年に八幡ロイヤルホテルが開業したそうです。
地元の人々には「本事務所といったら八幡ロイヤルのところ」という認識の人が多いらしく、2代目のほうが馴染み深いようです。
実際に今回眺望スペースで話をした観光客の複数名が「ニュースになるまでこんなとこ知らんかった」「本事務所と言ったらアッチ(=八幡ロイヤルのとこ)て思うもんね〜」と言われてました。初代の本事務所は最近まで非公開だったし、知らない人が多かったのも無理はないですね。
▲ 上の写真は眺望スペース入口右側の写真なのですが、写真左上にスペースワールドの観覧車が写ってるのがお分かりいただけますでしょうか。
この写真からもお分かりの通り、旧本事務所が世界遺産候補としてニュースとなったことでこの場所が脚光を浴びるようになったのですが、それよりも随分以前から、スペースワールドの観覧車に乗れば(当時非公開だった)旧本事務所を見物することが出来ていたのだそうです。
ただ、私有地の中にある非公開の建物ですから、たとえ観覧車から見えてもそれが何なのかを誰も知らないし、興味もないだろうし、仮に見てたとしてもまさか後に世界遺産として脚光を浴びるなんて夢にも思ってなかったことでしょう。
「正式に世界遺産となって公開もされたし、スペースワールドもそれを売りにすればいいですよね」と、観光ガイドさんと私で冗談を言い合って笑ったんですけど、「世界遺産が見える観覧車」って珍しいし面白いと思いませんか?
一方、中間市の駐車場は大変なことに
八幡の世界遺産をゆっくり楽しんだ後、今度は中間市に移動。もう1つの世界遺産である「遠賀川水源地ポンプ室」にも足を運びました。
▲ 駐車場へと誘導する立て看板も内容が変わってました。以前は世界遺産候補と書かれていた看板から「候補」の文字が削られ、中間市のマスコットキャラ「なかっぱ」のイラストが追加されてます。
▲ まず垣生(はぶ)公園の横にある駐車場に行ってみたのですが、ガラガラだと思ってた駐車場が満車どころか、駐車スペースではない場所にも車が停まるわ、満車だと誘導員が言ってるのに無視して侵入する車がいるわ、とてつもない大混雑!
▲ バスも数台停まってる。この状況は全く想定してなかった。これが世界遺産効果なのか! おそるべし!!
▲ と思ったら、隣接した野球場で高校野球の地区大会やってたというオチでした。
▲ たぶん私が訪れた時は地元の高校が試合中だったらしくて、車の台数もだけど声援もすごかった。
さて、垣生公園の駐車場ですが、前回エントリーにも書いた通り、ここから世界遺産までは徒歩で20分以上かかります。とにかく遠いのでオススメしません、と前回書きました。
実は前回エントリーを書いた時点で「将来的にはシャトルバスが運行されるかも」というウワサは聞いてたのですが、あくまでウワサの域だったし、中間市のサイトにも情報が出てなかったので、前回は書きませんでした。
シャトルバスがどうなったかを知りたかったので、話を聞きに行ってきました。
▲ 垣生公園の横には「新鮮市場さくら館」という野菜などの直売所があり、
▲ その隣りに「中間市地域交流センター」という建物があります。火曜が休館日だそうです。
▲ 無料シャトルバスが土日運行中、というポスターが入口に貼られていました。
▲ 地域交流センターの中でシャトルバスの時刻表をもらえます。これは2015年7月の時刻表であり、8月以降は変更される可能性があるとのこと。
他にもいろいろ情報収集したので、中間市のシャトルバスに関する内容を以下にまとめます。(注:記事執筆時点での情報です)
◆市営球場駐車場→現地(ポンプ室)を30分に1本(=1時間に2本)の間隔で運行中。
◆現在の運行ルートは、現地で観光客を下ろした後、「北九鞍手夢大橋(2015年に開通。JR鞍手駅近くの橋)」を経由して市営球場に戻る遠回りのルートであるため、少し時間がかかる。
◆ルートの変更及び運行数の増便について運輸局と現在交渉中。認可が下りれば8月は増便する予定。また運行ルートも北九鞍手夢大橋を経由せず、現地から直接Uターンするように変更するので時間が少し短縮される。
◆7月は無料で運行するが、8月または9月に有料(160円くらい?)となる予定。
◆有料になった場合、シャトルバスのチケット購入者には「さくら館」の買い物チケットを特典として付ける予定。
▲ シャトルバス乗り場は上の写真にある市営球場横駐車場のどこかだそうです。具体的には教えてもらえませんでしたが、「土日に行けばすぐ分かります」とのこと。
私みたいに普段から歩き慣れてる人ならともかく、徒歩20分以上という距離は観光客にとってハードルが高すぎます。シャトルバスは必須だと感じてたので、実際に運行が開始されたのは喜ばしいのですが、有料ってのは優しくないなあ。
7月中は無料ですが、高校野球の地区大会がここで開催されてる期間は駐車スペースがないかもしれません。となると、やっぱり前回エントリーで書いた通り、中間市役所前の河川敷駐車場がオススメということになります。
シャトルバスが無料のまま継続するのであれば垣生公園駐車場でもいいんですけどね。現地まで一切歩かずに済むし。ただ、自治体側にもいろいろ都合があるのでしょう。北九州市と中間市では世界遺産にかける予算額が全然違うでしょうし。
遠賀川河川敷駐車場からの行き方・改訂版
▲ ということで前回に続き今回も、中間市役所前にある遠賀川河川敷駐車場に車を停めて、徒歩で遠賀川水源地ポンプ室まで行ってきました。ここからならゆっくり歩いても10分で着きます。
▲ 中間市役所の懸垂幕が前回と変わってる。
▲ 市役所前交差点に何やら新しいもの(これ何て呼ぶんだろう)が設置されてました。
▲ 県道を川沿いに進み、「笹尾川橋」交差点まで直進。ここまでは前回エントリーの通りですが、ここで1つ補足というか訂正。
前回エントリーでは、この交差点を左折と解説しました。中間市のサイトでも当時そのように案内されてました。
▲ 車の交通量が圧倒的に少なくて安全安心、という意味では「左折」したほうがいいです。しかし今回交差点に立ってた誘導員は「直進」と案内してました。
直進コースも歩道はありますし、実際には直進したほうが若干ですが左折コースよりも近いです。なので今回は直進コースで解説します。
▲ ということで左折せず、交差点を直進。緑色の笹尾川橋を渡ります。
▲ 橋を渡るとすぐガソリンスタンド。ここをさらに直進して、徒歩1分でポンプ室に到着します。
▲ 県道側の眺望スペースが一変していて驚きました。前回来た時は荒れ地で、ポンプ室の敷地と同じ1段低い位置から見物するようになってましたが、現在は県道と同じ高さまで眺望スペースを土で盛り上げ、コンクリートで舗装しています。
このコンクリート舗装、なんと2日前に突貫工事で急きょ実施したんだそうで、まだコンクリートが完全に固まってないという出来たてホヤホヤ状態でした。
鉄製の柵も取り付けられ、その上に立てられた青い旗は観光ガイドさんたちがこの日の朝に立てたとのこと。お疲れさまでした。
▲ 眺望スペースの位置が高くなったことで、県道側からの眺めが以前よりも格段に見やすくなりました。以前は身長高い私でも視線と同じ高さに有刺鉄線があって邪魔でしたが、今は有刺鉄線が遙か下の位置にあります。
▲ ここがシャトルバスの乗降場にもなるので、垣生公園駐車場からバスに乗った人は、バスを降りたらすぐ目の前が世界遺産となります。ただし難点が1つ。
▲ 県道と歩道の間には高い敷居が撤去されることなくそのまま残ってるため、シャトルバスは歩道側に乗り入れることができません。県道上で停車したまま観光客を降ろすしか現在は手段がありません。
たとえば停車して観光客を降ろし始めた直後に、事情を知らないバイクがバスの左側から追い越そうと突っ込んできたら大事故になります。
安全面でとても不安を感じたので伝えたところ、観光ガイドさんによれば敷居の撤去は現在申請中とのことです。1日も早い撤去と安全面の改善を望みます。
▲ 県道と反対側のスペースにも観光ガイドさんがいらっしゃいました(写真撮影およびブログへの掲載許可を貰っています)。土日のみ交代で反対側スペースにもガイドさんが待機されているそうです。興味深い話をたくさん聞くことができます。
この日は月曜で通常ならガイドさん不在の日ですが、八幡と同じく世界遺産登録後の初日ということで待機されてました。
しばらく談笑させてもらったのですが、土日の大混乱でどうなることかと心配でならず、晴れて前日に世界遺産登録が決まり、皆さん満面の笑みで喜び、また安堵もされてました。
▲ 県道側の観光ガイドさんとも長時間お話しをさせていただきました(写真撮影およびブログへの掲載許可を貰っています)。元々は八幡製鉄所に勤務されていたOBなのだそうです。貴重なお話をたくさん聞けて楽しかったです。ありがとうございました。
りくま ( @Rikuma_ )的まとめ
八幡の眺望スペースで聞いた室長さんの言葉が大変印象的でした。
世界遺産に今回登録された北九州と中間の施設群は、豪華さも派手さもない、古びた小さな施設です。新しい観光名所だ〜、という軽いノリで来られた観光客の中には「え? こんなもん?」「これだけ?」とガックリくる人、失望する人がいるかもしれない。
そういう人たちにも、世界遺産という観点で施設の素晴らしさを上手く伝え、功績を理解してもらい、他エリアの施設群たちと同じく世界遺産に登録された意義を広めていくにはどうすればいいか。これが今後の課題です。そうおっしゃってました。
私が今回行ったのは世界遺産登録が決定した翌日でした。八幡も中間も、この日に訪れてた方々は皆さんかなり詳しくて、歴史や施設に関する知識も豊富で、何より地元愛がすごかった。観光ガイドさんもおそらく新日鉄OBの方々が数多く担当されていると思われ、とにかく詳しいです。
私は前回エントリーを書いた際に世界遺産関連施設についていろいろ調査しましたし、他の施設群についても4年前からウォーキングを趣味にしたことで訪れたことのある場所が多く、それなりに知識は持ってたつもりです。
しかし県外出身なので、昔の歴史は知らないことだらけ。ガイドさんや他の観光客の皆さんとお話しをして、たくさんの「今まで知らなかった北九州や中間の歴史」を教わることができました。世界遺産登録を喜ぶ同志のような感覚で、とても楽しい時間を過ごせて幸せでした。
これから夏休みシーズンに突入し、子供たちも数多く世界遺産施設を訪れることになるでしょう。八幡の本事務所を間近で見学できる日も待ち遠しいし、垣生公園からのシャトルバスも1度は体験したいと思っています。
北九州市民、中間市民の皆さんは、もっともっと我が街の世界遺産を喜び、誇っていいと思います。そして県内県外から訪れる方々には、北九州の近代産業を支えた歴史に触れていただき、他の観光名所とはまた一味違った魅力を見つけて頂ければ嬉しいです。