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『ビートルズ EIGHT DAYS A WEEK』劇場鑑賞レビュー

2016年10月15日

ビートルズ46年ぶりの公式ドキュメンタリー映画

ビートルズ

1970年の『レット・イット・ビー』以来、46年ぶりとなるアップル社公式のドキュメンタリー映画、『ザ・ビートルズ EIGHT DAYS A WEEK The Touring Years』。

2016年9月22日から劇場公開が開始されており、早く見たい、早く見に行かなきゃと思いながら時間が過ぎ、今日ようやく映画館に行ってきました。

上で「アップル社公式」と書いてますが、「iPhone」や「Mac」を作ってるアップルとは別会社。ビートルズの「アップル」とMacを作ってる「アップル」は商標を巡って約30年ほど裁判で争った過去があります。

その結果、ビートルズのアップルは「アップル・コア」という社名になりました。

コンサート活動中の映像が中心

映画のサブタイトルが「The Touring Years」となっている通り、この作品はビートルズがコンサートツアーをしていた1963年から1966年までの映像を中心に構成されているドキュメンタリーです。

1966年8月29日、アメリカのキャンドルスティック・パークで開催された公演を最後にビートルズはコンサート活動を終了しました。

1964年、アメリカに初上陸した際の記者会見では質問に対してジョークを交えながらハイテンションで答えるノリノリのビートルズ。有名な記者会見の様子も映画に収録されています。

「英国のエルヴィス・プレスリーと言われてることについてどう思う?」との質問に対し「言われてないよ!」と答えながらリンゴがプレスリーの真似した腰振りダンスで会見場の爆笑を誘うとか。

1965年8月、ニューヨークのシェイ・スタジアムで開催されたライヴ(史上初めて球場で行われたコンサート)がビートルズのライブ史における頂点となります。

ビートルズのシェイ・スタジアムにおけるライヴは、野球場で開催された史上初のコンサートです。

ビートルズがコンサート活動に冷めていく証言集

しかし皮肉にも、そのシェイ・スタジアム・コンサートでライヴに対する冷めた感情を芽生えさせてしまったジョージの証言が今作では収録されています。

また、最後となったキャンドルスティック・パークでのライブ終了後、会場から退場する際の移動手段が囚人護送車だったこと。これは映像でも出てきます。

カーブを曲がる度に車内で何度も横滑りする護送車の中でキレたジョンが

「こんなのは二度とゴメンだ!」

と発言したとの証言もあり、コンサートツアーに対するテンションがどのように上り詰め、どのように低下していき終焉に至ったかを数々の証言と共に振り返っています。

日本、フィリピン、アメリカで次々と狂乱の騒動に巻き込まれる

1966年だけを見ても、まず日本でのコンサートで会場となった日本武道館の使用を巡ってメディアを中心に批判が相次ぎました。

今でこそコンサート会場として聖地のような扱いの日本武道館ですが、ビートルズ以前に音楽イベントで使用した経験はありませんでした。

「神聖なる武道の殿堂を音楽で使うなんて、それも外国の長髪のペートルズとかいう奴らに貸すなんて言語道断じゃ!」みたいに騒動は過熱して、ビートルズの来日反対運動や排斥運動が堂々と展開されていました。

日本に初来日した際の記者会見で、

「武道館を使用するのは日本の伝統を冒涜しているという意見も国内にはありますが」

というメディア側からの質問に対し、ポールが

「もし日本の舞踊団がイギリスに来て王立劇場に出演しても、それがイギリスの伝統を冒涜しているとは思わない。日本の皆さんと同じように僕たちイギリス人も伝統的ですよ」

と、理路整然とした口調で返しています。

残念ながら映画ではこの返答内容の直前でカットされてます。

ジョンは辛辣なジョークを交えてシニカルに(時には感情的で超攻撃的に)返答するのに対し、ポールは穏やかで理路整然と返答する、というのが初期ビートルズにおける二人の役割分担みたいになっていました。

過激な人たちによる物騒な犯行予告もあったため、ビートルズは宿泊先のホテル(=東京ヒルトンホテル。現在のザ・キャピトルホテル東急)から一歩も出られず日本での数日を過ごした、という風に映画の中では紹介されています。

実際はポールだったかな、夜になって密かにホテルを抜け出して東京の街を散策したらしいんですけど、映画では当然ながらそのことには触れられていません。

日本の次に訪れたフィリピンでは、当時の大統領夫人イメルダ・マルコスが主催する晩餐会への招待を断ったため、テレビやメディアを使って非難・罵倒されたビートルズと関係者たちは暴動の恐怖に直面しました。

生命の危機を感じながら一行はホテルを即座にチェックアウトして空港に直行し、なんとか航空チケットを手配して逃げるように帰国しています。

映像集『アンソロジー』では、リンゴが苦々しい表情で「フィリピンは大嫌いだ」と呟くシーンもあります。

さらに同年、アメリカツアーの前にはジョン・レノンの「ビートルズはキリストよりも有名だ」発言がアメリカで曲解され、各地で暴動が勃発しました。

ラジオ局の呼び掛けによりビートルズのレコードを燃やす運動が展開されたり、某組織から物騒な声明を発表されたりもしています。

あまりに騒動が大きくなったため、アメリカ入国直後の記者会見でジョンは顔面蒼白になりながら釈明と謝罪をするしかなく、このシーンは映画の中にも収録されています。

これだけ次々と心的ストレスに直結する出来事ばかりが起き、いざコンサートになっても観客は悲鳴をあげるだけで誰も自分達の音楽を聴いてないし、目の前では警備網を突破して少しでもステージに近付こうとする乱入者と警備員の追いかけっこを見せられる。

そりゃ誰だってウンザリするよな、という描写に映画ではなってます。

初心者向けなのかマニア向けなのか、という疑問

今回、この映画を見るにあたり事前に気になってたポイントがありました。「誰に対して作られた映画なのか」ということです。

ビートルズに興味があるものの深くは知らない人、ファンになったばかりの人が見て面白いのか。

逆に、長年ビートルズを聴き続けている大ファン、書籍や映像に以前から触れるなどして深くビートルズを愛している、いわゆる「ビートルマニア」と呼ばれる人々を満足させられる内容なのか。

私個人の感想としては、ビートルズ入門編としてもよく出来ているし、コアなファンでも楽しめる内容じゃないかなと。

どちらかに偏っているのだろうか、偏っているなら少し問題あるかな、というのが最大の関心だったんですけど、上手い具合にバランスが取れていると感じました。

2時間という制限された上映時間なので、数年間の出来事を凝縮して編集するしかないわけで、深いところまでは斬り込めません。

それを踏まえると、どうしても出来事の幾つかを省略しなければいけない。そうなるとマニアにとっては「薄い」と感じ、ファン初心者にとっては「ザックリ過ぎて分からない点がある」と感じるかもしれませんが、2時間という制約を考えればこれで十分だと感じました。

デビュー前の映像も少しあり、デビューに至る経緯も軽く触れられているし、1963年から1966年までの「ビートルズの歴史」がザックリ網羅されています。

コアなファンなら「いろいろスッ飛ばしてる」のは分かりますが、それが映画の進行に影響を与えるほどではありません。ここら辺は編集の勝利かなと。

ビートルズを取り巻く驚異的な熱狂が当時どのように繰り広げられていたか、当時を知らない(=当時の映像を知らない)ファンには衝撃を与えるのではないでしょうか。

マニア的な立場で言うと、予告編では「未公開映像満載」とうたわれていたし、映画の宣伝キャッチコピーとして「誰もが知っているバンドの知られざるストーリー」とありますが、正直言って大半は見たことのある映像ばかりでした。8割くらいは『アンソロジー』を始めいろんな映像集で見ることができます。

ただ、それらを今回集め、2時間に凝縮して、大きなスクリーンと迫力ある音声で見ることが出来るというのはファンにとって幸せなことです。

だって、もう50年以上も前の映像ですよ。また映画館で見ることが出来るなんて想像しました?

ロン・ハワード監督には感謝の念でいっぱいです。またポールとリンゴに加え、今回も全面的に協力してくれた故ジョン・レノン夫人のオノ・ヨーコと、故ジョージ・ハリスン夫人のオリビア・ハリスン、4人にも感謝しかありません。

『アンソロジー』との比較で言うと、『アンソロジー』がどちらかと言えばメンバーや関係者のインタビューを中心とした構成であるのに対し、今回の映画『エイト・デイズ・ア・ウィーク』は1曲を演奏するライブのシーンが途中でカットされることなくフルコーラスで収録されています。

イントロからエンディングまで1曲の演奏やメンバーの熱唱をフルに楽しめるという意味では、コアなファンも満足できるはずです。

あのミュージシャンや女優がインタビューに登場

多くの関係者によるインタビューが詰め込まれていた『アンソロジー』では、メンバーのポール、ジョージ、リンゴ当人たちの証言に加え、生前のジョンの発言集や、アンソロジー・プロジェクトの中心的存在だったニール・アスピノールやジョージ・マーティンの証言も数多く収録されていました。

『アンソロジー』の撮影時は50代だったポールとリンゴも、今作では70代に突入。まだまだ元気とはいえ、表情や声音にはさすがに「老い」を感じてしまいますが、こればっかりは仕方ない。長生きして欲しい。切実に思う。

今作では他に、

  • エルヴィス・コステロ(ミュージシャン。ポール1989年のソロ作品「フラワーズ・イン・ザ・ダート」でプロデューサーを務めている)
  • ウーピー・ゴールドバーグ(女優。映画『ゴースト』で怪しい祈祷師オダ・メイを演じアカデミー助演女優賞を獲得)
  • シガニー・ウィーバー(女優。映画『エイリアン』『アバター』などに出演)
  • リチャード・レスター(映画監督。ビートルズの主演映画『ハード・デイズ・ナイト』『ヘルプ!』や『スーパーマン』の監督を務める)
  • 浅井慎平(写真家。ビートルズ側から依頼され1966年の日本公演では公式カメラマンとして同行)

といった著名人も出演し、エピソードを語っています。

ビートルズの大ファンとしても有名なコステロは、1966年にリリースされたビートルズのアルバム「ラバー・ソウル」を初めて聴いた時に落胆と怒りを感じた、というインタビューがとても興味深かったです。気持ちはすごく分かる。

シガニー・ウィーバーは、ハリウッドボウルのコンサート会場に観客としていたことを語っています。

インタビュー途中に挿入された当時のファンを撮影した映像の中で彼女によく似た少女が映っていて「あら?」と思ったら、当時14歳だったシガニー・ウィーバー本人だそうです。

ウーピー・ゴールドバーグは1965年のシェイ・スタジアム・コンサートに関するエピソードを披露。

母親にチケット購入を懇願したけど値段高いから無理だと断られ、しかし母は2枚のチケットを内緒で購入しており、サプライズでチケットを見せられた時の様子を語る時のウーピーさんは何とも可愛らしい少女のような笑顔。ここ、すごくホッコリします。

コンサート活動からスタジオ活動への移行

1966年、ビートルズ最後のコンサートとなったキャンドルスティック・パーク公演よりも後の描写に関して、映画ではどういう展開にするのだろう、もしかして1966年で映画を終了させるのだろうか、と興味がありました。

翌1967年にリリースされたアルバム「サージェント・ペパーズ」のレコーディングについて、映画の中で少しだけ触れられています。

前年のアメリカツアー時には品の無い記者から「あなた達は何故そんなに偉そうなのか?」などと質問されて怒ってたビートルズは、コンサート活動を終了させ、新たな音楽の創造を追求することに専念。

その結果、音楽史に永遠に残ると大絶賛された「サージェント・ペパーズ」を生み出し、「才能の枯渇」などと小馬鹿にしていたメディアや音楽評論家たちの評価を一変させることになります。

ビートルズのコンサート活動は1966年のキャンドルスティック・パークで終了しますが、例外として1969年にアップル本社ビル屋上での通称「ルーフトップ・コンサート」が行われています。

映画の最後では「ルーフトップ・コンサート」から2曲の演奏シーンが流され、そこからエンドロールが始まります。どの曲が流されるのかは見てのお楽しみ。

エンドロールでは、ビートルズの4人がファンに対してジョークを交えながら語っている音声が流されます。

これはビートルズの公式ファンクラブに入会していた人たちの限定特典として、1963年から1969年まで毎年、計7回配布されていたレコードに収録されているメッセージで、発言内容から1963年版だと思われます。

この音声メッセージ、日本ではカセットテープに収録され、同じくファンクラブ会員限定で販売されていました。

ファンクラブに入会していた私もカセットテープを買いました。まだ中学生だったから英語がサッパリ分からなかったけど、それなりに楽しんで聴いてました。

エンドロール終了後、劇場限定特典あり

エンドロール終了後、1966年に開催されたシェイ・スタジアムのライブ映像が4Kリマスター映像と音声で再編集され、劇場限定特典として上映されます。

コアなファンはそれこそエンドロール後がメインみたいなもんですよ。見ずに帰っちゃダメよ。

「劇場限定」とうたわれているので、後日リリースされるはずのブルーレイやDVDに収録されない可能性もあります。

もしかするとシェイ・スタジアムのライブ映像だけが単独でリリースされる可能性もないことはないけれど、個人的な予想では「多分ない」でしょう。あったら喜んで買うけど。

シェイ・スタジアムはメジャーリーグのニューヨーク・メッツが本拠地として使っている球場です。古くからのビートルズファンであれば「シェア・スタジアム」という名称のほうが馴染んでいるはず。

今もビートルズファンの中には、こだわりがあるのか、それともまだ知らないのか、シェア・スタジアムと呼んでる人がいます。昨日SNSでいろいろ調べてる過程で判明しました。みんな、そろそろ「シェア」は卒業しよう。

シェイ・スタジアムのライブは本来50分ほど長さらしいのですが、今回の特典映像として約30分に再編集されています。

私は1982年に、当時住んでた街のとある店で、シェイ・スタジアム・ライブのフルバージョンを見たことがあります。

輸入盤なので日本語字幕も付いていない映像でしたが、当時中学生だった私はその熱狂と演奏に強烈な衝撃を受け、3日続けてライブ映像を見るため通いました。

いつだったか、WOWOWで10時間以上ぶっ続けのビートルズ特集が放送された時、シェイ・スタジアムのライブ映像をフルバージョンで放送してくれたことがありました。確かあの時も「シェア・スタジアム」と呼んでた気がします。

『アンソロジー』でもシェイ・スタジアムの映像は断片的に収録されていますが、いずれも映像が粗いです。しかし今回の特典映像はさすがの4Kリマスター版。ビートルズの演奏シーンの映像がとても滑らかで綺麗。これを見るだけでも映画館に足を運ぶ価値はあります。

前代未聞の大観衆を前にして興奮し過ぎたジョンが、ラリったかのようにヘラヘラのMCをしたり、オルガンをヒジで演奏する有名なシーンもすべて特典映像に含まれていました。

まとめ

映画の補足的に長々と書いてきましたが、映画の本編はドキュメンタリーですし、コンサート映像が多くあります。

難しく考えずに、当時絶叫していた女性ファンたちの大歓声も含めてビートルズのライブを体感できる良い機会ではないかと思います。

あとはやっぱり、エンドロール終了後のシェイ・スタジアムは必見です。本編と同じくらい盛り上がります。

「ヘルプ」という曲を私はそれこそ何千回と聴いてるはずなのに、今回改めてシェイ・スタジアムで「ヘルプ」を歌ってるジョンの姿を見てたら涙が出ました。

1966年、誰もやったことなかったスタジアムでのライブを初めて実現したビートルズの4人が、ステージ上からギッシリ人で埋まってるシェイ・スタジアムの観客席を眺めた時、どれだけ興奮したのかは常人では想像すら出来ないでしょう。

そんな中、イヤホンもない、PAなどの機材もない、大歓声と悲鳴で自分たちの音が聞こえない中、仲間の身振り手振りや頭の動かし方、楽器の動作だけで判断し、それまでの練習の蓄積で一切音が狂うこともズレることもなく見事な演奏とコーラスワークを4人で成立させている。これがどれだけスゴいことか。

50年前、テクノロジーが現在よりも遙かに劣っていた時代にこのライブをやり遂げたことを頭に入れつつ、映画館のスクリーンの前で度肝を抜かれまくってください。

ドキュメンタリー映像集『ザ・ビートルズ・アンソロジー』についての解説エントリーを以前まとめています。興味のある方は以下エントリーも合わせて読んで頂ければ幸いです。

アンソロジー:デビュー前のビートルズが良く分かる映像集その1

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