初心の桜、自分を映し省みる場所

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暗黒時代から社会復帰へ

システムエンジニアとして務めていた会社を辞めてから数年間、生き方を見失っていた時期がある。

自宅から外に出ず、運動不足と薬の副作用と過食症が原因で体重は加速度的に増え続け、精神的な病だけでなく肉体的にも様々な疾患を身に持ち始めた。

蓄えていた貯金も確実に減っていき、反比例するように嫁との口論が増え始め、何をやっても上手くいかず楽しくもなく、何度も命を絶とうと考えた。

精神的な病が少しずつ改善し始め、再就職しなければ家計が破綻し、家庭が崩壊してしまうという現実に直面して怖くなり、就職活動を再開した。

しかし中途採用面接を受けた全ての会社から不採用を通達された。経歴は高く評価してもらえたが年齢がネックだと多くの面接官から言われた。

ただ、それ以外にも足りなかった点、あるいは欠けていた要素もあったのだろうと今になれば思う。たとえば面接時の態度。声の張り方。表情。覇気。社会復帰してからのヴィジョン。

50社以上の会社に落とされ、精神的にも下降してしまい随分不安定な時期を過ごした。睡眠導入剤を飲んでも眠れず、就職面接のための履歴書を書こうとしても用紙を見ただけで嘔吐してしまうようになった。

「正社員がダメならせめてアルバイトを」と嫁に言われ、求人雑誌を毎週購入し、様々なアルバイトの面接を受けた。しかしこれも全て駄目だった。世の中の全てから否定されているような気がした。

前職がシステムエンジニアだったこともありPCを使う職種を中心に面接する企業やアルバイトを選んでいたのだが、「もう仕事を選んでる場合じゃない」と嫁に言われ、悩んだ末に配送業のアルバイト面接を受けた。

ものすごく人手が足りなかったらしく、面接官はいきなり「いつから勤務できますか?」と言った。翌日から働くことになった。

精神的に過酷な仕事なら前職時代に幾度となく経験してきたが、配送業の仕事は想像を遙かに超えて肉体を酷使させられた。週に6日、朝の7時から夜10時まで。真冬の12月、時に気温が氷点下にもなる寒空の下で担当地域を汗だくになりながら走り続けた。

過食症の名残があったからなのか食欲は減退せず、食べないと身体が持たないので日々異様なほど食べ続けたが、それでも体重は減り続け、仕事を始めてから1ヶ月で11kg痩せた。

いろんな家庭に荷物を届け、様々な人々と接した。涙が出るほど優しい言葉をかけてくれた人も、人間以下の扱いで罵倒してきた人もいた。システムエンジニアだけに従事していたら絶対に知ることができない世界だった。

契約期間が終了し、お世話になった職場の方々から労いの言葉と、今後の人生への激励をたくさん貰えた。延々と家に篭もり続け悲観的なことしか考えられなかった自分が、他者に感謝され、毎日の重労働を1日も休まずこなせた。この仕事に耐えられたのだから、この先何があってもやっていけるに違いない。そう信じることにした。

何より、外に出ること、人と接することの大切さを真に学ぶことができた。金銭的な報酬は少なかったが、自信という名の精神的な報酬をたくさん貰えた気がする。

少しずつ人生が良い方向に回り始めた。再び無職生活になる不安を感じていたが、次に受けたDVDレンタルショップ店員のアルバイト面接に合格して採用され、配送業務の契約終了から1ヶ月も経たず再び社会に出る機会を得られた。

配送業と同様に未体験だった「接客業」という仕事。怠慢な同僚を許すことが出来ず仕事中に喧嘩したことも、横柄な客とカウンターを挟んで激しく口論したこともあった。この仕事でも数多くの、今まで想像すらしたこともなかった経験を得られた。

アルバイトなので給料は安かったが、精神的な病で療養中の頃に出会った「映画を見る楽しさ」と「映画DVDの情報収集」という趣味を仕事に活かすことができて楽しかったし、やり甲斐も感じていた。

2年近く務め、このまま映画に携わる仕事を続けていってもいいかなと思い始めた矢先、不思議な縁が紡がれて別の会社から正社員として迎え入れてもらえることになった。

50社以上の中途採用面接に落とされ、もう正社員は生涯無理だとあきらめていたのに、「うちの会社で働いて欲しい」と採用してもらえる日が来るなど夢にも思わなかった。

正社員として社会復帰した後もいろいろあり、ここでも自分の人生に縁がないと思っていた様々な経験を得て、昨年の春に退職してフリーランスとなった。

初心の桜

配送業の仕事をしてた頃、毎日通る道路に桜並木があった。季節は真冬の12月だったので当然花など咲いておらず、葉すらない木々。

人生の先が見えない生活を何年か続け、ようやく外に出る勇気を振り絞れた時だった。道沿いに延々と続いている桜の木々を眺め、「4月になったら、ここは感動的な桜の風景になるんだろうな」と毎日毎日想像しながら走り回っていた。

桜が咲く頃、契約期間は既に終わっているのだけれど、4月になったらここに桜を見に来よう、それまで歯を食いしばって生きよう。毎日疲労でヘロヘロになりながら、そう考えて気力を奮い立たせた。

配送業から接客業へと仕事が変わって初めての春、あの桜並木を見に行った。頭の中で毎日のように想像していた桜の花々。その想像を超えた圧倒的な美しい満開の桜が目の前に広がっていた。

それまでの人生において「花を愛でる」などという感性や嗜好など持ち合わせていなかったし、ましてや感動したことなど一度もなかった。

しかしその日、思い入れのある桜並木の前に立ち、真冬に走り回ってた日々の記憶、これから体験するであろう新しい仕事に対する期待そして不安、いろんな思いが交錯して、何とも表現のできない感情に支配された。

木の下で花を見上げながら、何に対してかは分からないが手を合わせて拝み、延々と泣き続けた。どういう感情で自分が泣いてるのかすらよく分かっていなかったが、ひたすら涙が止まらなかった。

通りがかった男性の老人が声を掛けてきた。桜の下で大の男が泣き続けてるのを不思議に思ったのだろう。

老人は「女なんて星の数ほどいるんだから元気を出しなさい」と言って、1時間近く自身の恋愛に関する思い出話を語ってくれた。失恋したわけではないのだが老人に感謝し、おかげで涙は止まった。

老人が去ってから、冷静になった頭で整理した。

人との出会いに対する感謝、機会との巡り合わせに対する感謝、家族の愛に対する感謝、そういった感謝の念を意識し、自分も他者に返せるような生き方をしたいということ。

生きるということは様々な局面があり、皆の上に立って自信満々だった時期もあれば自宅の部屋で絶望ばかりしていた時期も実際あった。それら全てを含めて人生であり、無駄にはならないということ。

毎年、春になったらここへ来て桜を見よう。そして自分自身を省みよう。「初心の桜」とその時に名付けた。

9年目

あれから毎年「初心の桜」を見に来ている。今年で9回目となった。

初心の桜

桜の咲き具合は毎年違っていて、惚れ惚れするほど美しい満開のときもあれば、まだ満開には早かったことも、あるいは満開時期を過ぎてしまい散り始めている最中のこともあった。

花の咲き方と同じく、自分自身の心模様も毎年来る度に変化している。希望に満ちあふれていた時もあれば、将来に光が見えず途方に暮れていた時もあったし、絶望していた時もあった。

今年は満開の時期を少し過ぎてしまい、前日に雨が降ったこともあり、落ちた花が地面に積もり始め、枝には桃色の花々に紛れて緑色の葉も見えてはいたが、それでも十分に美しかった。

「初心の桜」の前で過ぎた1年を振り返り、今から来る1年のことを想う。来年の今頃、自分はどうなっているのか、どうなっていたいのか、思いを巡らせる。

「過去の自分を超えろ!」「自分自身に打ち克て!」と力み過ぎてプレッシャーをかけ、結果的にはいつも以上に結果が出せず失望してしまうことが今まで何度かあった。

ここ最近は少し考え方が変化している。具体的には昨年フリーランスになって半年ほど経過した頃から少しずつ変わり始めたように思うが、力み過ぎずに脱力するコツをつかみたいというのと、ありのままを受け入れようと意識するようになってきている。

良いも悪いも全部ひっくるめて自分自身なのだし、掴みに行って得られないこともあれば、待っていたわけでもないのに向こうから来ることもある。コントロールできることと、できないことがある。

単一の結果に対して歓喜し過ぎず、かと言って自虐的になり過ぎるでもなく、まずは冷静に受け入れる。1つの結果のみに縛られ過ぎず、各々の個が繋がって別の形や色をした塊になることもある。それは偶然が呼ぶこともあれば意図してそうなるよう動いた結果として結実することもある。

無闇に動かず、しかし待っていることに安堵せず動く。このバランスと切り替えをもっと効果的に自然体で操れるようにしたい。

何も行動せず単に待つだけの身では改善もされず、機会も得られず、人生を回していくことは出来ない。これも無職の引き篭もり時代に体験したこと。世の中は泣いていたら常に誰かが頭を撫でて慰めてくれるわけではないということも自覚している。

結果を出している人は動いている。だから幸せになりたいのなら、やはり動くしかない。

初心の桜

今年は「初心の桜」の前でそんなことを想いながら花々を眺めていた。

来年の春で10年。次の「初心の桜」はどんな色をしているのだろう。桜の樹の前に立つ自分自身はどうなっているのだろう。

自分自身に失望するよりも、自分自身に期待する人生のほうが良いに決まっている。願えば叶うと言うが、そのために何ができるのか。何をすべきなのか。

呼吸をして動き続けるしかない。

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