リアルタイムでは見られなかった
ビル・ロビンソンという名前は、プロレスファンなら大半が知ってるはず。
私も当然知ってますが、残念なことにロビンソンがアメリカのプロレス団体・AWAで活躍していた頃や、日本では国際プロレスに何度も来日していた、いわゆる「現役バリバリの頃」を知りません。私が本格的にプロレス好きになったのはもう少し後だったので、リアルタイムで彼の試合を見られなかった。
キャリア最後の頃には全日本プロレスにも来日してたらしく、その時期から考えると、おそらく私はロビンソンの試合をテレビで観戦してるはずなのだけど(試合が放送されてれば、の話ですけど)、全然記憶にありません。
往年の名レスラーを特集するテレビ番組などでロビンソンの試合を見たことは何度もあります。
プロレス無知な女性でも知ってた異名
彼の最もメジャーなフィニッシュは、ダブルアーム・スープレックス。
ダブルアーム・スープレックスで対戦相手を後ろに放り投げる姿から、ロビンソンは「人間風車」という異名で呼ばれていました。
職場に、プロレスに関してほとんど知識のない同僚女性がいます。私より10歳ほど年上。
彼女に「プロレスラーで誰か知ってる人います?」と質問したことがありました。彼女、即答でした。「人間風車!」って。ちなみに人間風車の名前がビル・ロビンソンだというのは私が補足するまで忘れてたようです。
馬場とか猪木ならまだ分かるんですけど、なんでまたビル・ロビンソン?ってのが素朴な疑問だったんですが、聞けば昔、ロビンソンの試合を2回ほど生観戦したことがあるんですって。興味はなかったのに連れて行かれたんだとか。
当時の交際相手なのか、今のダンナさんなのかは知りませんが、彼女をプロレス会場に連れて行った男性はロビンソンの大ファンだったらしいです。で、同僚女性もロビンソンは覚えてたと。名前じゃなく異名を。
「でもあの人(=ロビンソン)、ブッチャーにフォークで腕刺されたんでしょ?」と彼女は顔をしかめながら話してくれましたが、それはテリー・ファンクだ。
元はスネークピット(蛇の穴)出身のシュートレスラー
ロビンソンは若手時代、イギリスのビリー・ライレー・ジムに15歳で入門しています。
ビリー・ライレー・ジムは通称「スネークピット」、日本式に言えば「蛇の穴」で、漫画「タイガーマスク」に登場する悪役レスラー養成所「虎の穴」のモデルにもなったジム。
「虎の穴」は悪役養成所ですが、「蛇の穴」は本格的なサブミッション技術などを教えるジムで、このジムを卒業したレスラーはいわゆる「シュート系レスラー」として対戦相手から恐れられ、興行主のプロモーターも「相手を怪我させる」と敬遠しがちだったそうです。
日本でシュート系といえばUWF(およびUWFから派生した各団体)が有名ですが、ロビンソンは晩年、UWFとも繋がっていきます。
ダブルアーム・スープレックスの考察
現在、いや、私がプロレスを本格的に見始めるようになった時代には既にそうだったんですが、プロレスの試合でダブルアーム・スープレックスがフィニッシュとなるのは一度も見たことがありません。
昔はそれこそ、ブレーンバスターがフィニッシュになってた時代もあったくらいです。真剣勝負論に寄り添った考察で言えば、受け身の技術が発達進化し、昔はそれで決まってた技がフィニッシュにならなくなったとも言えます。
一方で、プロレスは「ショー」でもありますからね。ロビンソンがダブルアームの元祖であり、当時は彼こそがダブルアームの使い手、オリジナルだったわけです。ロビンソンがあの技を使うことにこそ説得力があった。
しかし、他の選手が同じ技を使い始め、しかもそれがフィニッシュではなく「単なる繋ぎ技」として扱われてしまうことで、威力に関しては実際に受けてないから知りませんが、観客として見た時の技に対する説得力ってのは格段に落ちちゃうわけです。
「スープレックスマシン」オブライトの出現
ダブルアームに限らず他のスープレックス系も同じだったんですが、受け身を取れたらフォールされるほどダメージ喰らわないよね、ってのが素人ファンから見たイメージでした。
UWFや新日本で異種格闘技戦として「プロレスvsアマレス」なんてのもありましたが、あれにしても私は素人なので、アマレスがプロレスに勝てる要素ってのが分からなかったわけです。スープレックスくらいしかないのに、って思っちゃう。無知だから。
ここでゲーリー・オブライトの登場ですわ。彼はアマレス出身で、プロ転向後もアマレス技が主体だったレスラー。
ゲーリー・オブライト:恐怖の高速ジャーマンスープレックス【レスラー列伝#8】
亡くなってしまった名レスラーを偲び、個人的な思い出を記していく企画。今回はUWFインターで高田延彦らトップレスラーを次々と超高速スープレックスで沈め、後に全日本プロレスでも活躍したゲーリー・オブライトについて語ります。
UWFインターに登場したオブライトは「スープレックスマシン」と称され、「スープレックスでフォールなんて出来ないだろ」と考えてた素人ファンの常識をぶっ壊す、「スープレックスで相手をKOする」という攻撃で度肝を抜きました。
ジャーマン・スープレックスはホールドして3カウントを奪うのではなく、低く高速で受け身の取れないよう相手を後方にぶん投げ、気絶させる。
フルネルソン・スープレックス(藤波辰爾がやるとドラゴン・スープレックス)は、相手の両腕を後方からクラッチし、同時に自分の両手で相手の後頭部を押し、いわゆる「極めてる」状態。さらにこの状態から超高速で相手を後方に投げる。
腕を抑えられてるので受け身も出来ず、しかも頭部は極められて、さらに投げられて頭から落とされるんですから、下手すると死にます。受け身の名手として有名だった三沢光晴選手も、全日本に移籍したオブライトのフルネルソンでフォール奪われてるくらいですから。
ようやく分かったダブルアームの怖さ
オブライトは試合中にダブルアーム・スープレックスもやってたんです。フィニッシュではなかったし、高速ジャーマンや高速フルネルソンに比べればダブルアームの危険度は落ちるかな、と素人目線で見てたんですけど、詳しい解説を聞いたらオブライトのダブルアームは少し違いました。
下手くそな、って言ったら失礼ですけど、それほど驚異でもない普通のダブルアーム・スープレックスは、腕をクラッチして後方に投げ、その途中で両腕を離しちゃいますから、投げられた相手は両腕で受け身を取ればいい。頭から落ちるような下手な投げを喰らわない限りは、背中が少し痛いくらいで済みます。
オブライトはダブルアームで相手を投げる際、自分のお腹に相手の頭部をグイッと押し込んで当て、極めてたんです。で、両腕のクラッチもギリギリまで離してなかった。
これ、UWFインターの試合で誰か忘れたけど解説者が言ってたし、また週刊プロレスなどの雑誌にも分かりやすい角度からの写真が掲載されていて、「うわ!ほんまや!」と驚きました。
これも前述のフルネルソンと一緒ですよ。頭を固定され極められた状態で投げられ、腕のクラッチを離さないまま投げきったら、下手すると首の骨が折れます。それ想像したらメッチャ怖い。
そして思い出したのが、ビル・ロビンソンのダブルアームですよ。
意味分かります? だって彼、蛇の穴出身ですよ。シュートなんですから。
私は全盛期のロビンソンを見てないし、彼のダブルアームがどんな投げ方だったかを細かくは知らないですが、もしかしたらロビンソンのダブルアームも戦慄するほど怖い「やりかた」だったのかもしれませんよね。そんなことを想像すると、プロレスって深いなと思います。
少し前まで日本で活動してた
元UWFの選手だった宮戸選手が誘う形で、ロビンソンは東京・杉並区の高円寺にオープンした「UWFスネークピットジャパン」というジムでコーチに就任。ジム生に関節技などを指導していたそうです。
私がまだ週刊プロレスを購読していた時期にこのニュースは掲載されてましたが、いま調べてみると1999年にコーチ就任してから、2008年まで指導されてたんだとか。約9年を高円寺で過ごしていたそうです。
先週(=2014年3月3日)、ビル・ロビンソンが自宅で亡くなっていたとのニュースが報道されました。
享年75歳。ご冥福をお祈りいたします。