「紫川十橋」について
北九州市小倉北区の中心部を流れる二級河川「紫川(むらさきがわ)」。
1990年に「紫川マイタウン・マイリバー整備事業」というプロジェクトが開始され、個性的な10個の橋が架かりました。これらを総称して「紫川十橋」と呼びます。
今回、この10個の橋をすべて散策してきました。
端から端まで歩くと片道約2kmほど。橋を渡るなどして寄り道しても、3kmほど歩けばすべて踏破できます。
最も南側に位置する豊後橋

「音の橋」と名付けられた豊後橋は、紫川十橋の中では最も南側に位置する橋です。
現在の橋が完成したのは昭和58年(1983年)6月なので、紫川マイタウン・マイリバー整備事業が始まるよりも前に完成していたことになります。

橋の中央には大きな柱が立ち、柱の両脇には白色の細い柱が斜めに伸びる形状となっています。
この形状は楽器のハープをイメージして作られ、橋自体も「人と自然が織り成す音」というテーマで作られています。
それが「音の橋」と名付けられた由来です。
北九州市なのに豊後橋と名付けられた由来

この橋の不思議は、なんといっても橋の名前。なぜ豊後橋なのかということ。
現在の北九州市小倉北区がある一帯の国名は、江戸時代には「豊前国」でした。
豊前国は福岡県の中で主に東側、現在の北九州市門司区・小倉北区・小倉南区などがあったエリアです。
では、豊後橋が架けられたエリアが昔は豊後という地名だったのかというと、どうやらそれも違います。
そもそも豊後国というのは現在の大分県です。なぜ大分県の旧国名が小倉北区の橋の名前になったのか。その答えは橋の上にあります。

豊後橋の中央に立っている柱の一角に「豊後橋の由来」というプレートが掛けられています。これを読めばすべて解決しますので、引用します。
豊後橋は、’倉付俗話伝’によると細川時代(1600年〜1632年)に豊後国速見郡、国東群の農民達が現在地に架けた木橋で、橋名は農民の出身地を表しているといわれています。

橋中央の柱にはもう1つ、「小倉藩士屋敷絵図」というプレートも掛けられています。江戸時代の住宅分布や、再開発前の紫川がどういう形状をしていたのかが記されています。
中央に「紫川」と書かれているすぐ左側に「現・北九州市役所」と書かれており、さらにその左側には「小倉城」とあります。現在の市役所がある辺りは、昔は紫川が流れていたということが分かります。
小倉城と書かれている場所の右上(北東)には「現・小倉北区役所」と書かれ、さらにその右上には「大橋 現・常磐橋」という文字も見えます。常磐橋のすぐ北側は海になっており、現在とはずいぶん異なっています。
「現・小倉北区役所」の位置だけがどうしても意味不明でした。というのも、現在の小倉北区役所は小倉城の北側ではなく南側にあります。場所も違うし、方角も正反対。
調べてみると、小倉北区役所は紫川マイタウン・マイリバー整備事業の一環として、1999年(平成11年)に現在の場所(つまり小倉城の南側)へと移転し、移転前は小倉城の北側にあったのだそうです。
移転前の場所は上の写真にある絵図のとおり、小倉城の北側、現在の小倉北区室町にあったそうです。「火の橋・室町大橋」が架かっているエリアですね。
現在の小倉北区役所は、小倉北区大手町にあります。
さらに、移転前の(室町にあった)小倉北区役所は、1963年(昭和38年)2月10日に5つの市が合併して北九州市となる以前の「小倉市役所」でもあったのだそうです。

「豊後橋の由来」と「小倉藩士屋敷絵図」、2つのプレートは橋の南北にある歩道のどちらの柱にも同じものが掛けられています。興味のある方は是非じっくりと眺めてみてください。屋敷絵図はけっこう面白いです。
豊後橋周辺の風景

豊後橋の東側は、TOTOの本社工場が建ち並んでいます。道路を直進すると、左側にTOTO衛陶工場の正門、右側にTOTO本社の北門があります。

豊後橋の西側は、大手町病院などが建ち並ぶ大手町エリア。そのまま直進すると金田エリアに行けます。

橋を渡り「豊後橋西」交差点を左折すると、すぐ目の前に北九州都市高速の大手町インターチェンジがあります。
大手町ICから高速に乗ると、小倉駅や若戸大橋方面に行くことは可能ではあるのですが、かなり遠回りになります。
小倉駅や若戸大橋方面に行きたい場合は、「豊後橋西」交差点を右折して2〜3分で着く、北九州都市高速・勝山インターチェンジから乗るのをオススメします。

豊後橋の北側は、中央に「風の橋・中島橋」が、さらにその奥には「鉄の橋・紫川橋」の弓状アーチも見えています。
川の左手には都市高速、右手にはTOTO衛陶工場が見えています。なお、前述した勝山インターチェンジは風の橋・中島橋を直進してすぐの場所にあります。

豊後橋の南側は、中央に貴船橋が見えています。国道3号線に架かる橋ですが、貴船橋は紫川十橋には含まれません。
川の左手にはTOTO本社工場。貴船橋を左へ進むとTOTOミュージアムがあります。川の右手には大手町ICの料金所が見えています。
この一帯の河川敷は、春になると大量の美しい桜が咲き乱れることでも有名です。歩道が狭いため花見には向きませんが、桜の季節に紫川十橋を巡りつつ桜並木を眺めてみるのも良いのではないでしょうか。